第3章 ロングバージョン
「で、彼とはまだキス止まりなわけ?」
「は?」
テーブルの上のチョコレートケーキにフォークを刺したまま、結は友人の先制攻撃に言葉を失った。
唖然とした表情の彼女は、実年齢より少し幼く見える普通のオンナのコ。
そんな彼女に、人生で初めて出来た恋人は、知名度の高い人気モデル。
久しぶりに会う友人の質問攻撃は必然だろう。
「迫られたことないの?付き合いはじめて、もう二ヶ月経つんでしょ」
ミルフィーユを綺麗に切り分けて、ひとりパクパクと頬張っているのは、結の気のおけない友人……いや悪友と言うべきだろうか。
毛先が緩く波打った、柔らかそうな栗色の髪。
うっすらと施された化粧は、彼女のハッキリとした顔立ちをより美しく見せていた。
「ヤりたい盛りの高校生を、あんま我慢させるのも酷なんじゃない?」
「な、な、何を言って………」
女子が好きそうな装飾で彩られたお洒落な店内は、話題に事欠かない女子トークで溢れかえっている。
顔で採用を勝ち取ったであろう男性店員の好奇に満ちた視線を、結は逸らすことなく一瞬で撃墜した。
「も〜、悠ってば!声が大きいって!」
「あのイケメン店員をひと睨みとは。さすがに免疫あるヒトは違うね」
「ム。人をまず顔で判断するのは、悠の悪い癖だよ」
「あんな極上彼氏を捕獲したアンタに言われても、説得力ないってば」
「捕獲って……悠、言い方」
「あはは、ごめんごめん。でもさ、最近モデルとしての露出は減ってるのに、いまだに人気あるんだよ。彼」
「え?そう……なんだ」
メンズどころか女性向けファッション誌すら目を通さない結は、友人の言葉にわずかにたじろいだ。
「だからさ、結もこれくらいガツンといかないと」
定番であるパンツスタイルで待ち合わせ場所に現れた結は、険しい顔をした友人に連行され、強引に試着室に押し込まれたことをまだ納得していないようだった。
「そもそも、なんで今着せられてるのか意味分かんないよ」
「何言ってんの!まずは回数こなして慣れないと」
座ったら太股が半分見えてしまいそうなワンピース。
ロングブーツとの隙間を埋めるシアータイツが目に入り、結はテーブルの下でその短い裾をグイグイと引っ張った。
「風邪ひきそ……」