第22章 ギフト
「それ、言わなきゃ駄目……ですか?」
潤んだ瞳で見上げてくる恋人を、つい許してしまいそうになるのは惚れた弱味というやつだろうか。
だが、今日は一歩も引くつもりはない。
こんな美味しいチャンスはそうないのだから。
「聞きたいんスよ、結の口から」
「ムム」
口を尖らせて、依然抵抗をみせる姿に奥歯がムズムズする。
校内での不用意な接触は危険だと頭では分かっているのに、黄瀬は衝動的に目の前の身体を抱きしめていた。
「ハイ。時間切れ」
「ちょ、ここ学校……っ」
「大丈夫っスよ。この暗さじゃ、誰が何してるかなんてほとんど分かんないって」
広い敷地内を照らすため、等間隔に立てられている外灯の明かりも、体育館の壁にひっそりと佇むふたりを暴くような野暮な真似はしないはずだ。
「で、でも……」
「もう黙って」
大人びた黄瀬を高校生らしく見せている、濃いグレーのダッフルコート。
フワリと裾を翻したコートが、これ以上の抵抗を許さないとでもいうように小さな身体を包みこむ。
「結、あったかいっスね」
「……私は人間カイロですか」
「そ、オレ専用のね」
耳が冷たいからというそれだけの理由で、彼女が髪をおろすこの季節を黄瀬は気に入っていた。
肩先でふわふわと揺れる髪に、そっと差し込んだ指に感じるひんやりとした感覚も、胸の奥に灯りはじめた熱を打ち消すほどの力はなく。
「病み上がりのエースの体調管理も、優秀なマネージャーの大事な仕事じゃないんスか?」
「風邪ひいたのは随分前ですし、体調管理はともかく、これはマネージャーの仕事じゃありませんよ」
「じゃ、オレの可愛い彼女として……ってことでヨロシク」
「また……そんな調子いいことばっかり言って」
反論しながらも、コートの中でそっと背中に回る腕が、戸惑いがちに黄瀬を抱きしめる。
「あ〜、マジであったかいっスわ」
ぽかぽかとした温もりに幸せを噛みしめる一方、彼女に親しげに話しかける後輩の姿が、強く脳裏に焼きついて離れない。
(胸が、痛い……)
腕の中にすっぽりとおさまる細い肩を、黄瀬は強く抱きしめた。