第22章 ギフト
体育館の重い扉を閉めて鍵をかければ、後は帰宅するだけだ。普通ならば。
だが、今日は解決すべき問題がひとつあった。
「女の子達にはなんとかして帰ってもらうから、しばらく待っててくれよ。うまくいったら連絡するからさ」
「悪いっスね」
「お前のためじゃねーよ。水原さんに何かあったら困んだろ?」
そう言いながら黄瀬の背中をバシバシと豪快に叩く大柄な男は、同じ学年の中でも比較的仲のいいクラスメイト。
現在、海常のセンターを任されている彼は、かつてのライバルを彷彿とさせる、掴みどころのない性格の持ち主だ。
「ちょっ、痛いって」
「ははは。これくらい笠松センパイの蹴りに比べりゃ可愛いもんだ。じゃ、水原さん。寒いけど少し待っててもらえますか?スンマセン」
「こちらこそ、すいません。よろしくお願いします」
「ハイ、任せてください!じゃな、黄瀬」
「ヨロシクっス。みんな、お疲れ」
「お疲れさまです!」
「お先に失礼します!」
軽く手をあげたり、ペコリとお辞儀をするたくさんの背中を見送った後、黄瀬は隣で小さく手を振る恋人に視線を落とした。
「さて、と」
「な、なんですか?」
「さっきの話の続き。どうして結は今、ここにいるんスか?」
「だから……それは、監督に用事があって」
「何の用?次の練習試合のこと?それとも、練習メニューについての新しい提案とか?いずれにしても、キャプテンとして是非聞いときたいんスけど」
「ぐっ」
緩むことのない追及の手に、口を真一文字に結んで黙りこんでしまった彼女に、黄瀬は勝利を確信して小さく拳を握りしめた。
「正直に言わないと、ここでキスするよ」
「そ、それは駄目です」
「じゃあ、ちゃんと言って」
「……分かってるくせに」
観念したようにつぶやく声に、唇の端で小さく微笑む。
「オレに会いに来てくれた……ってことでいいんだよね?」
自分勝手な解釈だとなじられてもいい。
一秒でも早く逢いたい
一秒でも長く一緒にいたい
そう願う気持ちは同じだと、確かめずにはいられない。
「オレに……会いたかった?」