第22章 ギフト
「黄瀬センパイ、正門も裏門もアウトっす!すごい数の女子が!」
放課後の練習終了後、後片付けでざわつく体育館。
偵察役をかってくれた後輩の興奮した声に、黄瀬はガクリと肩を落とした。
すでにバレンタインというイベントは、年に一度、女の子が勇気を出して好きな男の子に告白する特別な日ではなくなりつつある。
にもかかわらず、未だに黄瀬のもとには軽いものから本気モード満載のものまで、ありとあらゆる想いが押し寄せていた。
『彼女いた時も、チョコくらい喜んで貰ってなかった?』
『でも、去年から誕生日プレゼントも全部断ってるって聞いたよ』
『それってさ……ガチな本命が出来たってこと?なんか面白くな〜い』
良くも悪くもそんな噂が広まり始めているにもかかわらず、イベントに乗じて果敢に攻めてくる肉食系女子はあとを絶たない。
「あぁ。もう勘弁して欲しいっスわ」
「でも、収穫もありましたよ。黄瀬センパイ」
「へ」
体育館の入口に突っ立ったままの後輩が、にやりと笑いながら横に一歩スライド。
そこに佇む人物に、黄瀬は言葉を失った。
「!?」
「……お疲れさま、です」
少し俯いた首に巻かれたチェックのマフラーは、間違いない、彼女の愛用品だ。
「結!?なんで!?」
予定外の訪問に驚きを隠せないまま、その足は吸い寄せられるように結のもとへと一直線。
「水原さん!」
「お疲れさまです!今日はどうしたんですか?」
「こんばんは。皆さん、練習お疲れさまでした」
控えめなのによく通る声が、熱気の残る体育館に響きわたる。
「黄瀬センパイと今からデートですか?」
「そっか、今日はバレンタイン……ご馳走さまっす!!」
「ふたりとも、日曜の基礎練は五倍に決定ですね」
「「ひぇ〜!」」
ドッとわく体育館。
片づけていた手を止めて、一斉に彼女へと向けられる部員達の視線を遮るように、黄瀬は結の前に立ちはだかった。
「どーしたんスか?練習終わったら連絡するはずじゃなかったっけ?」
「そうなんですけど……えっと、お、疲れさまです」
身を屈めて耳許で問いかける黄瀬の、サラリとこぼれる金の髪から距離を取るように後ずさる結の腕を、黄瀬はまるで周囲へ見せつけるかのように強く掴んだ。