第22章 ギフト
「黄瀬センパイ!さっき持ってたの、チョコですか?流石ですね!」
めざとい人間は何処にでもいるものだ。
練習の合間にかけられる言葉は、尊敬する先輩への純粋な憧れであって、決して悪気はないのだが。
「ハハ、まぁ……ね」
チョコの数は、モテ度と人気を測るバロメーター。
甘いものはそれほど得意ではないくせに、オンナのコから貰えるチョコが単純に嬉しかったのは過去の話。
(オレ、なんであんな喜んでたんだろ……)
今ではさして嬉しくもない現実に、キラキラとした羨望の眼差しを向けられて、黄瀬は肩をわずかに竦めてみせた。
「ちゃんと断ったんだけどね。強引に押し付けられたり、足元に置いてかれちゃうと、どうしようもなくて……さ」
「あ!そ、そうですよね。黄瀬センパイには……スンマセン!失礼なコト言ってしまって!」
「や、ダイジョーブ。気にすんな」
(そう、もうオレには結がいる。彼女さえ隣にいてくれればそれで……)
日曜日だった去年のバレンタイン。
『バスケ部の練習は昼から』
『黄瀬涼太は昼前には学校に現れる』
女子の情報網は侮れない。
その噂は海常だけでなく、他校の女子やモデル黄瀬涼太のファンにまで、まさに光の速さで拡散していった。
だが、海常の正門で待ち構えていた女子のパワーをものともせず、黄瀬は断固とした声で言い切ったのだった。
『今、本当に好きなコがいるから、誰からも貰うつもりはないんだ。ホントにゴメン』と。
その真剣な告白に辺りは一時騒然となり、学校の守衛まで飛んでくる騒ぎとなったことは、あまり思い出したくない苦い記憶だ。
一年前のあの日……はじめて彼女をこの手に抱いた。
日曜練に顔を出すという彼女をなんとか説得し、一夜を過ごしたホテルから家へと送り届けたことは正解だった。
ふらつく身体を支える度に、真っ赤な顔で逃げようとする可愛い恋人との帰り道の記憶に、つい口が緩む。
「……あれからもう一年、か」
「おい、黄瀬。顔がデレてんぞ」
「っと」
シュンと音を立てて飛んでくるボールを片手で受け止めると、黄瀬はその場で軽くジャンプした。
「おお……」
「スゲェ」
右手から放たれたボールはキレイな放物線を描きながら、リングに触れることなくネットに吸い込まれた。