第22章 ギフト
時刻は朝七時。
『今日は一日よく晴れるでしょう』
天気予報通り澄んだ空を見上げて、盛大に吐いた息が白く染まる。
「はぁ……」
重い足取りでたどり着いた校門の前。
駅や電車の中で強引に押し付けられたプレゼントが、手に提げた袋の中でガサガサと音を立てた。
「あ!黄瀬クン!」
「うわぁ!私ホンモノ見るの初めて!マジ格好いい!」
「リョータ!」
「……マジ、カンベンして」
群れをなす女子の歓声に乾いた笑みを見せながら、黄瀬涼太は寝不足で重い瞼をゆっくりと閉じた。
(せっかく早起きしたのに……てか、なんで去年より増えてるんスか)
次々と差し出されるカラフルな箱に、綺麗にラッピングされたプレゼント。
去年、声を嗄らして断った苦労は一体なんだったのだろう。
「えっと……みんなの気持ちはスゴく嬉しいんだけど、オレには今、大切なコがいるから受け取れないんスよ」
ゴメンねと真剣な顔で謝る姿を、さっきとは異なる悲鳴が包みこんだ。
ひやりとした空気が満ちる体育館にホッとひと息。
主将の登場に、すでに朝練で汗を流していた後輩たちの視線がいっせいに集まる。
「おはようございます!」
「黄瀬センパイ!おはようございます!」
「おはよ」
『先輩』と呼ばれることに、未だに感じるかすかな違和感。
黄瀬にとってその言葉は、笠松のように偉大な先輩にこそふさわしいものだと思っていたからだ。
笠松だけではない。
森山や小堀をはじめ、生意気な新入生を海常の仲間として受け入れてくれたたくさんの背中に、どれほどの力をもらっただろう。
ウィンターカップを最後に引退した、早川や中村も然り。
(今、オレがここに立っていられるのは、間違いなくセンパイ達のおかげだ)
今年も、あと一歩というところで全国制覇の悲願を逃した青の精鋭、海常高校バスケ部。
泣きはらした目で「後を頼む」と言いながら、肩に置かれた先輩達の手の重みを忘れたことはない。
これからは最上級生として、そしてキャプテンとして海常を率いていく。
(オレに出来るだろうか……いや、やるしかない)
そして、いつか必ず──
号令前に大きく息を吸い込むのは笠松の癖。
黄瀬は同じように肺に酸素を取り込むと、「うっし!集合!」と、まるで自分自身に気合いを入れるように凛とした声を発した。