第18章 ホーリーナイト
「24日の夜、ですか?」
ポカンと開いた彼女の口。
そんなに変なことを言ったか?
「クリスマスイブだぞ。豪華ディナーなんてのはさすがに無理だが、少しくらいは一緒に過ごし……」
「浮かれてる時期じゃありません」
まぁ、確かにそうなんだが。
ぐうの音も出ず、俺はポリポリと頭をかいた。
一年前、仲間達と叶えた夢と、この手に掴んだ彼女との未来。
今年、恋人として初めて迎えるクリスマスに、色々と期待するのは男として当たり前だろ?
だが、ウィンターカップ真っ只中では、街の恋人達のように甘い時間を過ごせるはずもなく。
次の日は試合ですよ、分かってるんですかと真顔で詰めよる可愛い姿を思い出して、ひとりプッと噴き出す。
「でも、その代わり……」とそっと差し出された小さな手と交わした約束に、今度はだらしなく口許が緩む。
大晦日まで待てるだろうか。
大切にしたい気持ちと、狂おしいほどの渇き。
常に後者の熱量が上回っていることを、もう一度分かりやすく教えておく必要があるみたいだな。
爽やかな髪の香りに、トロけるような顔と少し掠れた声。
彼女のすべてが、この瞬間も俺を捉えて離さない。
(逢いたい、今すぐに)
冷たさを感じない四角い画面を、指先で優しくタップする。
『……はい』
耳に当てた携帯から流れてくるのは、街中に流れる定番の曲を一瞬で消去する愛しい声。
素っ気ない応答に嬉々とした色が見え隠れするのは、俺の気のせいじゃないはずだ。
「結か?」
分かりきったことを聞く自分の馬鹿さ加減に、一段とゆるむ顔をほわりと覆い隠してくれる白い息。
冬の粋な計らいに感謝しながら、俺は彼女に伝える言葉を懸命に探した。
Happy merry Christmas
with T.Kiyoshi☆
Who's next?