第18章 ホーリーナイト
「クリスマスに浮かれてる場合じゃありません」
「ええーーっ!?でも、その真面目な顔もカワイっスね」
何か言いました?と眉間に皺を寄せる顔もスゲー好きなんスけど。
結局、何の約束もないまま迎えたイブの夜。
「はぁ〜」
こぼれ落ちた溜め息が、目の前を一瞬白に染める。
ウィンターカップ真っ最中じゃ仕方ないけど、やっぱ淋しいっス。
さっきから何度もスマホを確認するが、メッセージが届く気配は微塵もなくて。
付き合いはじめて一年経つのに、相変わらずクールなオレの彼女。
(声聞くくらいなら、怒られないよ……ね?)
画面の一番上にある愛しい名前を指先で撫でて、長いコールのあとプツリと聞こえる応答の音がこんなにも待ち遠しい。
「もしもし!結っ!」
『あーもー、うるさい』
聞き覚えのある尖った声は、少々口の悪い自分の母親のもの。
「な、なんで結の携帯に出て……」と言いかけて、ハッとする。
もしかして、うちにいる!?マジで!?
『せめてクリスマスケーキくらいは……って、今うちの台所で一生懸命作ってんのよ』
思わず足を止めた拍子に、背中にドンと感じる軽い衝撃。
「あ、ゴメン」と振り返ると、「きゃあ!」と知らない女の子が頬を染めて跳びはねた。
でも、オレは今それどころじゃない。
聞いてない!聞いてないっスよ!
「ちょっ、それドッキリとかじゃ……」
『ふふん。ほっぺたにクリーム付けて、食べちゃいたいくらい可愛いわよ。写真送ろうか?』
有料で、と親とは思えない要求を一方的に終了させ、帰路を急ぐために駅へ猛ダッシュ。
写真?ホンモノに敵うわけないって。
「……いや、写真も捨てがたいかも」
オレの誕生日から半年。
苦手だと言ってたケーキ作りの腕前はあがったんスかね?
でも、砂糖控えめのクリームよりも、今一番欲しいのは恋人の甘いキス。
早く帰ろう、彼女が待つ家へ
自然と速度を上げる脚で人混みをかき分けながら、ニヤける口許を隠すように、オレはマフラーをくっと上に引きあげた。
Have a sweet Christmas
with R.Kise☆
Who's next?