第15章 リベンジ
「一緒に入ろっか」
「……は?」
キョトンとした幼い顔と小さく開いた紅い唇。アンバランスな魅力に、簡易仕様の理性が揺らぐ。
黄瀬は本能の赴くまま、目の前の身体を抱きよせた。
「こんなに濡れて……」
「き、黄瀬さん!?」
だが、背中に回した手に触れる帯を解こうとするも、濡れて固くしまったソレは思いのほか強敵で。
(帯ってどうなってんだっけ?確か……)
持てる知識を総動員して、強固な砦を崩そうとする思考力が、学生の本分である勉学に活かされないのは残念な話だ。
「ちょ、何してるんですか!?」
「何って……帯ほどこうとしてんスけど。ダメ?」
「駄目に決まってるじゃないですか!いつ誰が帰ってくるか分からないのに……っ」
「じゃ、キスだけ」
腕の中から逃げようとする恋人を壁に追い詰めると、黄瀬は了解を得る前に唇を奪った。
「っ、ん……ぁ」
一度この声を、この甘さを知ったら最後、我慢なんて出来るわけがない。
やわらかさを確かめるように唇を吸って、わざと音を立てたキスを何度も繰り返す。
「ふ、っ……ぁん」
「家に誰も居ないのは誤算、だった?」
「そんな、こと……っ、ン」
「それとも……誘ってんの?」
きゅっと下唇を引っ張ったり、食むようにやわやわと噛んだり。イタズラなキスは一向に止む気配を見せない。
「やっ、ま、待って……」
「髪、崩すの勿体ないんスけど」
顔中にキスを降らせながら、うなじを刺激するように這っていた指が、濡れた髪をかき乱す。
「っ」
音もなく床に落ちた髪飾りで、髪を解かれたことに気づいたのだろう。
ぴくりと肩を竦める恋人に、欲情という名の熱がジリジリと下半身に集まりはじめる。
「ほら。力抜いて」
細い肩にまとわりつく黒髪に、黄瀬は深く顔をうずめた。
しっとりと濡れた髪の感触を確めた後、頬や首に這わせた唇で肌を味わう。
(ヤバいっスね……もうやめないと、引き返せなくなる)
頭では十分すぎるほど分かっていた。
「ん、駄目……っ」
その反面、浴衣を引っ張って弱々しく抗う恋人を困らせてみたくてたまらない。
囁きとともに首筋に刻んだ所有のシルシが、えも言われぬ快感を呼び覚ます。
「……結」
それが無駄とは知りながら、黄瀬は煩悩を追い払うように、ゆっくりと息を吐いた。