第2章 キノコ
「その反応……やっぱ、オマエまだ処女かよ」
青峰は予想通りの反応だとでもいうように目を細めると、結の肩に腕を回した。
「なななな何言ってんスか!?マジやめて!青峰っち!」
「オイ!さっきから何の話してんだよ!」
「笠松。お前も男子高校生ならそろそろ知っておくべきだぞ」
「(僕、もう帰りたいですっ!すいませんすいません、すいませんっ!)」
それはまさにカオス、だった。
会話についていけない笠松と、そんな彼によからぬことを吹き込む気満々の森山と、オタオタするだけのキノコが一本。
そして、今にも「それが何か」とでも言わんばかりに反抗的な目を向ける結の口を、黄瀬はあわてて自分の手で塞いだ。
「ちょ!お願いだから真顔で返事しようとしないでっ!」
「むぅーーっ!」
モゴモゴと抵抗する結の唇が、黄瀬の手のひらで大暴れ。
(うわっ、結の唇やわらか……じゃなくてっ!)
真っ赤になってあたふたする黄瀬の姿に、青峰は腹を抱えて笑い出した。
「ぶはっ、なんでお前が照れてンだよ。意味分かんねーわ」
「マジでデリカシーなさすぎっス!アホ峰っちのバカ!」
「誰がアホ峰だ!黄瀬っ!」
バカには気づかない青峰が心底気の毒だ。
結は、黄瀬に言葉を封じられたまま、心の中でそんなことを思った。
「え、と……桜井クンだっけ?後はお願いしてもいいっスか」
「え?あ、すいません!分かりました、すいませんっ!」
これ以上ここにいるのは危険──そう判断した黄瀬の行動は早かった。
「オイっ、黄瀬!どこ行くんだよ!」
「センパイ!すんませんっス!」
笠松の問いをスルーし、黄瀬は結の身体をひょいと脇に抱えると、その場から脱兎のごとく逃げ出した。
「ほぉ……黄瀬のやつ、まだ結ちゃんに手を出してないのか」
「くくっ、傑作だな」
森山と青峰は、重なった視線をすぐに逸らせると、口の端で小さく笑った。