第14章 バースデイ
『オレには今、大切なヒトがいるから受け取れないんスよ。本当にごめんね』
事務所に一方的に送られてくるのは仕方ないとしても、目の前に差し出されるカタチある物や気持ちを、何ひとつ受け取ることは出来なかった。
大声で泣き出してしまったり、悪態をついて去っていったり。
通学の電車の中に始まり、部活中の体育館まで……何度そんなやりとりを繰り返しただろう。
『黄瀬、いつも以上に大変そうだな』
『中村センパイ。すんません、練習の邪魔しちゃって……』
『お前が悪いわけじゃないから謝んなって。それに皆、お前の気持ちは分かってるしな。もう今日はそろそろ上がったらどうだ?早川もそう言ってたし……』
お前なら解読出来ただろ?と、眼鏡越しに柔らかく微笑む瞳に胸の奥が熱くなる。
『……有難うございます』
頼もしい先輩に心の底から感謝して、黄瀬は深く頭を下げた。
彼女達には申し訳ないと思う。
だが、本当に欲しいモノはもう手に入れた。
腕の中の小さな存在は、どんな高価な贈り物にも敵わない。
「結が着けて」
「え?」
首を傾けながら器用にピアスを外し、耳を差し出すように近付く端整な顔。
「でも、着けたことないから」
「大丈夫っスよ。ほら、ココ……」
柔らかい耳朶に触れて、ドキドキと高鳴る胸の鼓動。
彼の指先に導かれながら、結はぎこちない手つきでなんとか装着を終えた。
「痛くなかったですか?」
「ウン。ど?似合うっスか?」
お披露目するように、髪を耳にかける仕草が悔しいほど色っぽい。
「に、似合うっス」
「ぷっ。結って時々オレの語尾が移るよね。ホント可愛すぎ……」
ぎゅっと抱きしめられた腕の中、結はその温かい胸に頬を寄せた。