第14章 バースデイ
部屋に響くリップ音。
啄むように重なるだけの唇が、少しずつ深さを増していく。
「結……ん、ン」
わずかな隙間を狙って侵入しようとする熱い舌に、すぐ翻弄されてしまうのは目に見えている。
「ん……待っ、て」
頬に添えられている大きな手を、結は引き離すようにそっと掴んだ。
「キスもダメ、なんスか?」
「ちょ、ちょっとだけ待ってください」
「え~」と子供のように拗ねる恋人に背を向けて、結は枕元に手を伸ばした。
「……コレ」
そう言って黄瀬の前に差し出されたのは、金のリボンがかかった小さな箱。
だがそれよりも、ベッドの上でキリっと正座する真剣な姿が可笑しくて、黄瀬はたまらず噴き出した。
「どうして笑うんですか」
「いや。も、結が好きでたまんなくてさ……」
それ理由になってません、と膨らむ彼女の赤い頬をプニっとひと突き。
「ゴメンゴメン。ホラ、こっちおいで」
まだおさまらない笑いを隠すように、黄瀬は結の身体を背中から包み込んだ。
脚の間にスッポリ収まるサイズが心地いい。
「これ、開けてい?」
「ハイ……」
金のリボンを解き、手触りのいいジュエリーボックスの中から現れたのは片耳用のコンビのピアス。
「うわ、シンプルで綺麗っスね。これなら学校にも着けて……」
そっとピアスを持ち上げた手を、黄瀬はぴたりと止めた。
「っ、じっくり見ないでください」
ピアスの裏に刻まれた文字が、徐々にぼやけていくのは何故だろう。
感謝の気持ちを伝えたいのに、うまく口が回らない。
「なんか……オレ、こんな感動したのハジメテ、かも」
「……黄瀬さん?」
背中で声をつまらせる黄瀬を振り返った結の目が、驚きで丸くなる。
「りょー……た」
自分を映す彼女の瞳が好きで
自分の名前を呼ぶ彼女の唇がこんなにも愛しくて
(オレ、こんな幸せでいいのかな……)
「涼太……」
距離を縮める唇が、濡れた頬を労るように滑っていく。
その優しさを今はただ感じていたくて、黄瀬はゆっくりと瞼を閉じた。
「お誕生日おめでとうございます」
「ウン、ありがと」
首に腕を回して優しく髪を梳いてくれるやわらかな身体を、黄瀬は力一杯抱きしめた。