第14章 バースデイ
彼女と過ごすハジメテの誕生日。
この日をどれだけ楽しみにしていただろう。
否応なく膨らむ妄想に、眠れぬ夜を過ごしたことは若気の至り……ということにしておこう。
(ま、エッチがしたいだけじゃないし……今日は仕方ないっスね)
「ハハ、そりゃ残念」と彼女が気にしないように、ワザとおどけて見せた黄瀬の身体は、だが次の瞬間ベッドに押し倒されていた。
「へ?」
「だから、今日は……」
天井を背景にした恋人の顔を視界に映しながら、黄瀬は長い睫毛で何度も瞬きをした。
「ちょ、ナニして……っ」
カチャカチャとする音にあわてて視線を向けると、そこには震える手でベルトを外そうとしている彼女の姿。
(何コレ……神様が、オレの自制心を試してるとしか思えないっスわ)
葛藤することわずか数秒。
黄瀬はゆっくりと上半身を起こすと、その無謀とも思える行為を留めるように、自分の手をそっと重ねた。
「結。んなの、しなくていいって」
それは、自然に口をついて出た言葉だった。
「え、でも……」
「桃っちに、また余計な入れ知恵でもされたんスか?」
「う」
真っ赤になった顔は、その指摘が肯定だという証拠。
「まぁ、この前のアイデアは悪くなかったけど……」
(ホント、分かってないんだから)
どうしたらいいか分からずに目を泳がせる彼女の頬を、黄瀬は両手でそっと包みこんだ。
「結、好きだよ」
「っ」
一瞬で潤む瞳に、ズキンと疼く下半身はただの生理現象。
それ以上に、いま胸を占めるこの感情をなんと呼んだらいいのだろう。
「ねぇ。こんなに好きなのに、まだ分かんないの?」
「黄瀬さ……」
「無理しなくていいんスよ。こーいうのは、お互いに気持ちよくないと駄目なんだから」
「……この前は一方的に……イジめたくせに」
「うっ。それは耳が痛いっス」
顔を見合わせて微笑みを交わした後、引き合うように近づく唇が、お互いを労るようにゆるく重なる。
「女の子は大変っスね。あ、身体ダルくない?」
「うん、平気。でも、本当に……ごめんなさい」
「謝んないの。結の気持ちは十分に伝わったから」
まぁ、ちょっと惜しいことしたけど……と零れた本音は、「コラ」という結の呆れた声にのみ込まれた。