第14章 バースデイ
大人しくされるがままの恋人の肩を抱き、もう片方の手を額に当てる。
だが、亀のように首を竦める彼女の体温に異常は感じられない。
「熱はないみたいっスね」
「ゴ心配アリガトウゴザイマス」
「なんでカタコト……てか、さっきから何考えてんの?今日の結はちょっと変スよ」
意を決したように顔を上げたものの、小さな口からこぼれるのは「あ、う」とア行ばかり。
上を向いたり下を向いたり。
その挙動不審な可愛い仕草が、今日のプレゼントなんだろうか。
(ヤバい、病気だ……)
ゆるむ頬を必死で持ち上げながら、黄瀬は「ちゃんと言って?」と次の言葉を促すように、優しい声で囁いた。
「あ、のね。今日は、その……駄目な日、っていうか……」
意を決したように「だから、その……ごめんなさい!」と頭を下げた彼女の言葉に、黄瀬は大きく頷いた。
(あぁ、そーいうこと……か)
『18日は………………』
寝る前に交わす癒しのひととき。
急に途切れてしまった携帯越しの会話に、黄瀬はベッドの上で小さく首を捻った。
『もしもーし。結?寝ちゃったんスか?』
『ね、寝てませんっ!あの……18日は、ワタシの部屋に来ませんか?』
『へ?』
『ひっ、人払いしておきますから!』
『ぷはっ!何スか、その権力者的な発言』
派手に裏返った声が可笑しくて、布団の中でひとしきり笑い転げた後、黄瀬はニヤける口元を隠すように、枕に深く顔をうずめた。