第14章 バースデイ
「黄瀬!おまえは今日、早めに上が(れ)よ!」
早川主将のビミョーな指示も、今日は比較的聞き取りやすい。
海常のチームメイトにニヤニヤと見送られるというオプション付きながら、黄瀬は早めに練習を切り上げさせてもらうと、浮き浮きとした足取りで恋人の家に直行した。
「はぁ〜美味しかったっス!お腹いっぱい、ご馳走さま」
「お粗末さまでした」
彼女の手作りオムライスに舌鼓を打ち、幸せな気持ちで満たされたお腹にもうデザートの入る余地はなかった。
それよりも。
「ねぇ。結の部屋、行きたいんスけど」
「えっと……でも、ケーキがまだ」
口ごもる恋人の手をキュッと握って「連れてって?」と頭のてっぺんにキスを落とす。
握り返してくれる小さな手に、ほんの少しの罪悪感。
(ごめん。でも、今日くらいワガママ言わせて?)
心の中でこっそりと謝りながら、黄瀬は結に手を引かれて二階へと上がった。
「結の部屋にゆっくりお邪魔すんの、もしかしてハジメテかも」
「ソ、ソウデスカ?」
父親から譲ってもらったという机は、女の子の部屋には一見似つかわしくない貫禄と存在感を醸し出している。
だが、ここでいつも彼女がペンを握ってると想像しただけで、机すら愛しく感じてしまうのは末期症状のひとつだ。
「……す、すげぇ」
本棚にギッシリと詰まった本の種類とその厚みに、黄瀬はゴクリと喉を鳴らした。
ぱっと見た限り、ファッション雑誌などは見当たらない。
(もしかしてオレのも、見たことないんスかね?)
彼女らしいといえばそれまでだが、やはり格好いいと言われたいのがオトコの──いや、彼氏の本音だ。
「ここ、座ってい?」
「う?え、ア……」
甘過ぎず地味過ぎない北欧テイストのベッドカバー。
その上にぽすんと腰を降ろした黄瀬の意味深な微笑みに、結はボッと頬を染め上げた。
「そんなテンパって……可愛すぎ」
「う」
いつもなら強烈なカウンターが来るはずなのに、今日の彼女がみせる挙動不審な言動に、黄瀬は小さく首を傾げた。
「結、ちょっとこっちおいで」
「……ハイ」
観念したように近付いてくる結の腕を引くと、黄瀬は自分の隣にそっと座らせた。