第12章 トップシークレット
「結?」
「う」
ポロポロとふたつの瞳から溢れる大粒の涙に、黄瀬は目を見開いた。
「うわっ、なんで泣いて……ゴメン!なんかオレ、ヤりすぎた?」
「馬、鹿……バカ、ぁ」
「っ……結、お願いだから泣かないで」
迷子になった子供のように泣きだしてしまった恋人を、おそるおそる抱きしめる。
(オオオオレ、なんかしたっけ?)
胸を濡らす涙に、心臓がドクドクと嫌な音を立てる。
ちょっと──いや、かなりトバした自覚はあったが、特に無理なコトを強いたつもりはない。
何よりまだ一回戦だ。
今日の行いを振りかえりながら、黄瀬は震える身体をなだめるように、両腕に少しだけ力を込めた。
「どう?少し落ち着いた?」
「むぅ……涼太の、バカ」
鼻を啜り、小さく顔を上げた結の濡れた瞳に、黄瀬は弱々しく微笑んだ。
「どっか痛いトコある?オレ、なんか嫌なコトした?」
ピクリと跳ねる細い肩。
だが、下から睨んでくるウサギのような目に、いつものような迫力は欠片もない。
「今日の涼太は、ちょっと……意地悪、でした」
(──意地悪?あぁ、なるほど。そーいうコトか)
確かに今日は少しイタズラが過ぎたかもしれない。
あがりそうになる口角を引きしめながら、黄瀬はむきだしの肩に指を滑らせた。
「じゃあ身体は大丈夫、ってこと?」
「だ、大丈夫じゃありません。腰が……痛い、です」
「それはホラ、オレも一緒。振りすぎて腰がガクガクっスよ」
「だ、だから!そういうのが駄目なんですっ!」
脇腹をつねられて「イテッ!」と大袈裟に背中を反らせる黄瀬に、結は「自業自得です」と口を尖らせた。
「ほんとにゴメン。あんま可愛くてさ、ゾーン入っちゃったんスよ」
「そんなゾーン聞いたことありません」
もっともな話に頷きながら「でも、いい谷間だったな」とつぶやく黄瀬にもう反省の色は見えない。
「アレはいわゆる寄せて上げる的な……って、何を言わせるんですか!」
「えぇ!?今の、悪いのはオレ!?」
「きょ、今日は全部リョータのせいなんです……」
「ハハ。了解っス」
さっきの名残なのか、まだ名前を呼んでいることは内緒にしておこう。
くすぐったい気持ちを隠すように、黄瀬は少し腫れた恋人の瞼にそっとキスを落とした。