第12章 トップシークレット
タオルで軽く身体を拭いたあとも、まだ火照る熱を持て余すように、黄瀬は汗ばむ前髪をかきあげた。
「結、だいじょーぶ?」
「う、ん」
薄手のケットを身体に巻き付けて、気怠げに返事をする彼女の隣に、ボクサーパンツ姿のままゴロリと寝転ぶ。
「ノド渇いてない?」
「ごめん、ね。泣いたり……して」
「ん?」
噛み合わない会話とトロンとした赤い目に、黄瀬は小さく首をひねった。
「結が謝ることないんスよ」
「でも……」とムニャムニャ動く唇は、何度も噛まれたせいか少し腫れていた。
「イジワルしちゃったオレが悪いんだからさ。でも、オレの誕生日は一緒に過ごしてくれる、よね?」
「ん。勿論……っス」
(ぷ、はっ)
彼女に訪れようとしている眠りをこれ以上妨げないように、身体を折り曲げ、笑いを噛み殺す。
そのおかげか、はたまた情事の疲れからか、穏やかな寝息を立てはじめた恋人の髪を、黄瀬は指でそっと整えた。
もうすぐ訪れる誕生日。
こんなにも待ち遠しいのは初めてだ。
「首にリボン巻いてさ、“私がプレゼント”ってベタなのも受け付けるけど?」
鼻先で髪を掻き分けて、現れた可愛い耳にそう吹き込むと、眉間に深いシワを刻むしぶい表情に、思わず声がこぼれる。
「ハハ。夢の中でも駄目なんスか」
本当はプレゼントなんていらない。
ただ、ずっと隣にいてくれればそれで──
「今日は泣かせちゃって、ホントにごめんね」
謝罪のキスは、彼女の目が覚めた後に取っておこう。
「ん、何だコレ」
ふと足に絡んだものを引き上げた黄瀬の切れ長の目が丸くなる。
それは、桃井が選んだであろうピンクの下着。タグに刻まれたアルファベットに、思わず歓喜の声を上げる。
「お、ぉ……なかなか」
鼻の下を伸ばす人気モデルの、ここでしか見られない貴重なワンショット。
(桃っちに口止めしとかなきゃ)
たった一文字のアルファベット。
言葉責めに弱いことも、無邪気な寝顔も、全て自分だけの最重要機密。
汗が引きはじめた身体を同じケットに潜りこませると、黄瀬は抱きしめた結の香りを、胸の奥深く吸いこんだ。
「あぁ、幸せ」
小さな寝息につられるように欠伸をひとつ。
自分だけの寝顔を目に焼きつけながら、黄瀬はゆっくりとまぶたを閉じた。
end