第12章 トップシークレット
ドサリ
黄瀬の肩からずり落ちたカバンの音が、住宅街の道路に鈍く響く。
「桃っち、と……え、結?」
「少し早いけど、私からの誕生日プレゼントだよ。このラッピング、きーちゃんが気に入ってくれたらいいんだけど」
じゃあね!と大きく手を振りながら、その場から走り去る桃井の背中を、黄瀬はポカンと口を開けたまま見送った。
これは何のトラップだろう。
(もしかしてドッキリ?)
テレビならこの辺りで、プラカードを持った青峰が。
「って、出てくるわけないっしょ!」
「き、黄瀬さん?」
「あ、ゴメン。ちょっと白昼夢を見たってゆーか……」
「なんですか、それ」と可愛く笑う彼女の艶めいた唇が目を直撃。
「まぶしっ……て、いや、ちょ、早くこっち……あぁ、鍵どこだっけ?」
あわててカバンを拾い上げ、掴んだ恋人の手首の細さに、今さらながら鼓動が跳ねる。
ガタガタと混乱する指で玄関の鍵を開けると、黄瀬は結の身体を家の中に押し込んだ。
バタンと大きな音を立てて閉まる扉に、ホッと息を吐く。
「まぼろし…………いや、夢?」
ブツブツとつぶやきながらゆっくりと振り返った切れ長の瞳に映るのは、だが紛れもない恋人の姿。
もじもじと恥ずかしそうに身を捩る結の装いに、黄瀬は自分の目を疑った。
「夢、じゃない。てか、ナニ……それ?」
胸元が大きく開いたボートネックのカットソーは、身体のラインをくっきり見せるタイトなデザイン。
襟を飾るビジューの輝きよりも、描き出された胸の谷間に黄瀬の目は釘付けだ。
袖から伸びるほっそりとした腕の白さに視線を奪われながら、チクリと胸を刺す痛みの正体はなんなのか。
「……ここまで、そのカッコで来たんスか?」
「さ、さすがにそんな勇気ありませんっ!」
激しく頭を振る結の手にある薄手のカーディガンに、安堵の息を吐く。
こんな姿を自分以外の誰かが目にするなんて耐えられない。
独占欲、嫉妬、そして渇望。
初めて知る感情に、脳内回路は焼き切れる寸前だ。
ふわりと盛り上がった胸のふくらみが、ユラユラと誘うように揺れて、まるでトンボにでもなった気分だ。
贅沢な話だが、露出の多い服も胸の谷間も、黄瀬にとっては特にめずしい光景ではなかった。
ただひとりを除いては──