第12章 トップシークレット
「結ちゃん。ぼーっとして、どうしたの?」
「ふぉっ!?」
桃井の問い掛けに、結の口から出たのは見事な変声だった。
「ぷっ、変な声」
「ご、ごめんなさい。ちょっと考え事してて」
「なになに?やっぱりきーちゃんの事?いいな〜ラブラブで」
目をハートにして満面の笑みを浮かべる桃井は、今日も安定の愛らしさで周囲の視線を独り占め。
「なぁなぁ、あのコめっちゃ可愛いな。しかもチョー巨乳」
「すげ〜!ちょっと声かけてみね?」
きっと彼女にはよくあることなのだろう。
大げさな溜め息をついた後、声の主をキリリと睨む桃井によって、ナンパは呆気なく幕を閉じた。
「胸しか興味ないバカな男って、ホント嫌になっちゃう」
そう言って憤慨している彼女の魅力は、胸だけではない。
顔も可愛くてスタイルも抜群。ちょっと黒いのがたまにキズだが、性格も素直だ……多分。
めずらしい色のサラサラのロングヘアも、彼女の甘い雰囲気によく似合っていた。
「羨ましいな……」
「え、何のコト?」
結は、標準装備の自分の胸をそっと見下ろした。
(何が標準なのかよく分かんないけど)
黄瀬とそういう関係になったものの、自分の貧相な身体に自信を持てず、結は秘かに悩んでいた。
そんな話をぽつりぽつり。
「う〜ん。誰かさんなら兎も角、きーちゃんはそんなこと気にしないと思うけど」
「そう、なんですけど……」
(やっぱり大きい方がこう、色々とオトコの人を悦ばせられるっていうか)
雑誌で得た知識を総動員させた小さな手が、じわじわと空を掻く。
「ね、結ちゃん。なんか手の動きが怪しいんだけど……」
「っ」
周囲の目を気にしながら、ふたりはコソコソと店を後にした。
(ホント結ちゃんって面白いな。でも……)
「えい!」
「ん、ぎゃっ!?」
いきなり背後から桃井に胸を掴まれて、結はリアルに飛び上がった。
「ふむふむ。なるほどね」
「も、もも桃井さんっ!?」
「結ちゃん、ちょっと買い物に付き合って?」
笑顔の桃井に腕を組まれて、ぞくりと背中が総毛立つ。
(嫌な予感……)
赤い顔を青く変えながら、結は桃井に引き摺られるように、街の雑踏へと消えていった。