第4章 東峰旭
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「ふふふっ」
「そんなに笑わなくてもいいだろ〜……」
部活も無事に終わり、沙奈は東峰と2人で帰っていた。
まだボールのせいでほんのり赤い顔を視界に入れる度に笑う沙奈。
どれほど強い威力で当たったのか容易に想像できる。
「とりあえず沙奈にケガがなくてよかったよ」
大地には感謝しないとな、とへらりと笑う東峰に新垣は不機嫌になる。
「…優しいのは旭のいい所だけど、自分より私を優先させるのはあんまり良くないよ。自分をもっと大切にして」
まるでフグの様に頬を膨らませて自分の事を叱ってまで心配してくれている優しさに顔面の緩みがとまらない東峰。
さっきよりもニコニコしだしたのを新垣がみて更に不機嫌になる。
「これからは私より自分のことをもっと優先させて?」
「うーん、それは難しいかなぁ」
沙奈のことが大切だから、と優しすぎる視線と共に暖かい大きな手が新垣の頭を心地よい程度に撫でた。
思わず新垣は歩を止める。
つられて東峰も歩を止めた。
「…沙奈?」
心配になって不安気にかがんで目線を合わせてどうしたものかと尋ねようとするが、俯いていて表情すらわからない。
バッ、とこちらを見たかと思うと東峰の両頬を荒々しく両手で包み込んだ。
「だからいつまで経っても!ひげちょこはひげちょこなの!!」
ゴツンと鈍い音がしたと思うと新垣は数メートル先の自宅まで走り出した。
…と思ったらピタリと止まり振り返った。
「送ってくれてありがと!!ちゃんと家帰ったら冷やしてね!おやすみ!!ひげちょこのバーカ!!」
「……お、おやすみ」
再び走り出して今度こそは家の中に入っていく。
1人残された東峰はぽつんとただ突っ立っていた。
去り際の捨て台詞みたいなものは沙奈らしくて東峰は愛おしそうに微笑んだ。
「まさか頭突きされるとは思わなかったなぁ」
少しだけジンジンする額に手を添える。
きっと沙奈はもっと痛かっただろう。
(…あぁ、痛い)
何故だろう、心が痛い。