第4章 東峰旭
*
一方、その頃の沙奈はというと。
(やってしまった。)
家へ駆け込んだものの玄関で頭を抱えてしゃがみこみ青ざめる。
本当はあそこまでやるつもりはなかったのだ。
でも旭も旭なのだ。
「はあああああぁぁぁぁ、…もうっ!」
甘やかしてくる旭にも甘やかされている自分にも怒りを覚えてわしゃわしゃと髪をかき乱す。
もやもやとした気持ちが頭と心を麻痺させて自分がなにをしたいのかわけが分からなくなる。
とりあえず、ゆっくりと深呼吸をする。
旭のことを考えないようにお風呂に入ったりご飯を食べたりゴロゴロしてみた。
……だけど結局ふとした瞬間にでてくる。
考えないようにすればするほど旭だらけになる脳内。
「あー」っと無意味に声を発しながらベッドの上で脚をバタバタさせて遊んでいた。
ピタリ、
動きを止めて仰向けになる。
「……ひげちょこのバーカ」
ポツリ呟けば目から涙が止まらなくなった。
女の人が泣くのは精神を保たせるためってどこかで聞いたことがあるけど、本当かも知れない。
まだ溢れ続ける涙。
こんな困ったときは、
「大地ぃぃぃいいいいいいっ」
大地さまさまですね。
泣きついて電話をかけたら盛大なため息が返ってきた。
『……沙奈、とりあえず落ち着け』
そして鼻をかみなさい、と大地パパが言うので遠慮なくズビズビと鼻をかむ。
今日の旭とのことを話すけど頭の中がぐちゃぐちゃで上手くまとまらない。
だけど大地はちゃんと最後まで聞いてくれた。
『明日もまた聞いてやるから今日はもう寝なさいよ、な?』
「パパ好き、ほんと大好き」
『パパってのやめなさい』
困ったように笑う大地。
「明日はお昼食べる時に話きいてね?」
『おう、任せろ』
優しい声に心が穏やかになっていく。
ポソポソと話していたらいつの間にか携帯を握りしめて寝ていた。
『…おやすみ、沙奈』
そっと大地は電話を切った。