第13章 涙
次の日になって彼は店にやって来た
私が彼に水を出しに行こうとしたら
同僚が押しのけて行ってしまった
彼が、微笑みながら受け取るのを
私は離れた位置から見ていた
私は煩わしいのは勘弁だった
だからこれでいいんだ
そうこれで....
私は、彼が店から出ていくまで
一度も彼の側に行くことは出来なかった
店から去る彼を窓の向こうで見て
私は笑っていた
これでいい....
そう思いながら
自分の胸の痛みを消そうとしていた
仕事をやっと終えて店を出ると
やっぱり車が止まっていた
いつもなら、直ぐに私は乗り込むのだが
何故か躊躇してしまい足が動かなかった
そんな私に彼は不思議に思ったのか
彼の方から車から降りて来た
大倉「ひさしぶり、俺の事を忘れてもうた?」
そう言いながら私に近寄って来た
「おひさしぶりです....」
私は、普通を装いながら挨拶した
でも、いつもと違う雰囲気を指したのか
大倉「どうしたん?」
心配そうに顔を覗き込んできた
「いえ、何もないです....」
大倉「そっか....」
彼も俯いてしまった
私はそんな彼を見つめながら
「昨日、撮影していましたね....」
大倉「おん、来てたんやって
衣装さんに聞いた....」
「そうですか....」
そうしても二人の言葉が続かず
沈黙が二人を包む
すると突然彼は
優しく私の手を握った
大倉「煩わしいんは嫌いなんやろ?」
いつもの私なら手を払いのけていた
でも、私は握られたまま返事をした
「そうです....」
大倉「でも、俺はアンタなら
煩わしいの歓迎なんや」
私は、その言葉に彼を強く睨んだ
そう拒否の意味を込めて
しかし、彼は気にせずに言葉を続けた
大倉「どんなに冷たくされたって
どんなに俺をあしらっても
アンタなら許せるねん
不思議やけど....」
私の胸が熱くなっているのを
自分でも分かっていた
でも、認めるてはダメだった