第9章 頼み
それからというもの
彼は時間があると夜中に店に来た
店では客と店員としていた私たちだったが
私の仕事が終わると
たわいもない話をして過ごしていた
しかし、店の方では
今のインターネット社会
噂はすぐに広がる
彼に会える店だとなり
夜中なのに若い女の子の客が増えていたのだ
そして従業員たちは
こんなに騒がれても彼が来るという事は
誰かお目当ての人物がいるのではと
シンデレラ探しが始まっていた
彼のおかげで暇だった私の仕事時間は
忙しくなっていたが
当の本人は気にする事なく
時々、熱烈なファンの握手を上手に断りながら
食事を楽しんでいるようだった
そんな彼を私は
心のどこかで大物だと感じていた
彼目当ての客の所に料理を持っていくと
女の子は嬉しそうに彼を見ている
とても可愛い
でも、彼が言っていた看板を思い出した
彼はこの空気に疲れているから
味の違う私に興味を持ったのだろう
そう考えていた
私と彼の関係は変わる事無く
ちょっとした知り合いのはずだった
いつものように
仕事終わりに彼は待っていた
最近は止まっている彼の車で
話をするようになっていた
そう、人目があるから
いつものように彼の車に乗り込むと
彼は誰かと電話をしていた最中だった
大倉「おん、わかってるって
大丈夫やから、信じろって」
私が乗って来た事を知ると
彼の声が小さくなった
だから聞かない振りして外を見ていた
大倉「ほんならな、また明日な」
そういうと彼は急ぐように電話を切った
大倉「ごめんな....」
そう言うと私に微笑む
「いえ、お忙しいなら今日は帰りますので」
大倉「また、
そんな冷たいことを言うんやから」
彼は笑いながらスマホを
自分のポケットになおした
大倉「あんな....」
「はい」
彼が私を見つめて、なかなか言ってくれない
その様子が不自然だった