第83章 思い出
彼はそんな私の気持ちをよそに
車のエンジンをかけると黙って走らせた
不安な気持ちを抑える事が出来ずに
「大倉さん、どこに行くのですか?」
運転する彼に問いかけたが
彼はハンドルを握り前だけを見て
大倉「ひ・み・つ・・・・」
そう私に言うと悪戯っ子の子供のように
笑いながら運転を続けた
黙って走る車から私は外の夜景を見るように
視線を変え
心を落ち着ける事にした
出会った時から、彼の車に乗って
私は過ごしていた
彼と喧嘩もした
過去を話した
二人で泣いた
二人で愛を確かめあった
色んな時間を
二人で過ごしたのを思い出した
思い出しながら一人微笑んでいた
大倉「眠いん?」
何も言わずに景色を見ている私に
彼は声を掛けてきた
「いえ、外の景色は綺麗ですね・・・」
私は久しぶりに見る
彼の運転からの夜景を
いつの間にか楽しんでいた
大倉「そっか・・・」
彼も嬉しそうに夜景を見ている私を見て
微笑みながら運転をした
この彼との当たり前の時間が
どれだけ幸せだったか
別れを経験した二人には
何よりも感じられていたのだった
見覚えのある風景を見つめながら
二人は未来に向かって
車を走らせていたのだった
その先に幸せが待っていると願いながら