第80章 奇跡
私は抱きしめている彼の腕の力を
弛めるは事なかった
彼の方は静かに動かずにいた
後ろから抱きしめている私には
彼の顔を見られないので
彼が何を考えているか分からなかったが
逃げないでいる彼を感じて
私の心はどこか安心していた
「・・・私も、忘れられないんです」
私の声は震えていた
その震えた小さい声が
彼の耳に届いたのかゆっくりと動き
私を真正面に据えると小さく深呼吸し
静かに口を動かした
大倉「アンタをマスコミから守りたくって・・・
離れたんやけど・・・
やっぱ馬鹿な事をしたな」
彼は辛そうに言うと
何も言わない私に言葉を続けた
大倉「ホンマにそれしか
思いつかんくって・・・」
言いながら俯いた彼を私は見つめて
「本当に馬鹿ですよ・・・」
私の言葉に彼は反応した
「私だって、大倉さんとの幸せの為に
闘えるのに・・・・・」
私は震える手で彼の手を握ると
彼の手も震えている事を知った
大倉「別れる事がどんなに辛くても・・・
守りたかったんや・・・」
彼は私の両腕をしっかりと掴んで見つめた
「大倉さん・・・・」
大倉「ほんまに、ごめんな」
彼の謝罪に
私は今までの思いを込めて伝えた
「もう、離さないでください
お願いします・・・・」
彼はその言葉に答えるように
強く私を抱きしめ
大倉「おん、絶対に約束する」
私は彼の温もりを感じ
自然に熱い涙が頬を濡らしていた