第78章 今
彼と別れて二か月
私は一人で闇の中を必死で歩いていた
そんな世界の中でフッと思ったのだ
私は夢の世界にいただけだったと
その世界から帰って来ただけ
彼と出会ったのは
神様の悪戯だったのだと
私はそう思い込もうとして
前を進もうとしていた
仕事場では
彼女以外は私を無視していた
そんな事すら私には関係なかった
私が本当に求めているのは
違っていたから
もう
どんなに願っても叶うことない
過去の時間だった・・・・
「先輩、大丈夫ですか?」
私は過去を思い出して
考え事をしていたので
彼女は心配して声を掛けてくれた
「ありがとう、大丈夫」
私は彼女の顔を見て微笑みながら答えた
この仕事場には思い出が溢れていた
それが余計に私を悲しませていた
仕事を辞めようと考えた事もあったが
私の心の中にまだ
小さな奇跡を願っている自分がいて
この場所に留まっていた
もしかしたら彼がまた来てくれるかも知れない
そんな事はあるはずはないのに
私は、小さい望みで毎日を過ごしていたのだ
あの日から
安田さんも丸山さんも来なくなった
当たり前だが
帰りの道に誰も前に現れる事もなくなっていた
あの日から私の生活の全てが変わったのだった
でも、夢じゃないと思うのは
彼から沢山もらった思い出と
いつも私のポケットの中にある指輪だった
この指輪があるから
彼との出会いと恋は夢ではないと思えた
あれだけ、温もりを感じた指輪は
今は氷のように冷たかった
恋人を亡くした時
私は心を無くした
彼を失った今
私は未来を失った
私には夢のようで眩し過ぎる未来を
私は、毎日をただ過ごしていたのだった
神様がまた悪戯をしようとしていたのを知らずに
暗い自分の人生を歩んでいたのだった