第77章 別れ
安田さんに連れられて
初めてのマンションに来ていた
私は何も話す事が出来ずに
エレベーターでも黙って乗っていると
安田さんが静かに話しだした
安田「大倉のマンションやったら
張られてるから俺の所でな」
そう告げると優しい微笑みを見せてくれた
「・・・・そうですか」
安田さんの微笑みを見ながら
私は胸の不安を拭うことが出来なかった
目的地の階に着くと
エレベーターは静かに扉が開き
安田さんは先に降りたので
私も続いて降りた
そして私の前を歩きながら
安田「時として
人は悲しみを乗り越えなアカン時が
あるんやろな・・・・」
そうボッソっと言ったのを
私は聞いてしまった
「安田さん、どういう事ですか?」
私が慌てて聞き直すと
突然立ち止まり
安田「ここやで・・・」
そう言うと
私の質問を無視するように
目の前の部屋の扉を開けて
私を招き入れたのだ
何とも言えない不安の中に
部屋に入って行くと
中では大倉さんがソファーに座って待っていた
大倉さんは私の顔を見ると
ソファーから立ち上がり
安田さんに向かって
大倉「大丈夫やったか?」
安田「もちろんや、誰にも見られてないで」
安田さんは大倉さんに笑顔で答えると
静かに私の背中を押して
大倉さんの前に座らせてくれた
大倉さんは私が座ったのを見ると
小さなため息をつくと口をゆっくりと開いた
大倉「・・・ほんまに、ごめんな」
彼が何に対して謝っているのか
分からなかったが私は
辛そうな表情の彼を見る事に
胸が痛んでいった
「・・・いえ、私は大丈夫です」
私は俯きながら答えた
本当なら彼に触れたいが
安田さんがいる手前
それが精一杯の私のメッセージだった