第7章 甘え
それから、二週間が過ぎたが
彼は現れる事はなかった
仕方ないと思っている部分と
心のどこかに
寂しさが漂っている自分を感じていた
それは自分で望んだこと
でも彼から渡された傘を
捨てる事も出来ず
いつか渡せる時が
来るかも知れないと思い
仕事場のロッカーの奥に入れていた
そんな中
彼がある女優とのデートが週刊誌に載り
仕事場の仲間は
その事について色々と話していたのだが
私はロッカーのその傘を見て
その人の物だと思っていた
ただ毎日が過ぎていた日々だった
もうすぐ
ラストオーダーの時間になる時
一人の男が入って来た
夜なのにサングラスをして
帽子を目深にかぶっていた
私は、一瞬で誰かわかる
「いらっしゃいませ....」
私は水を出しながら声をかけると
その人は
席に深く座るとサングラスを取った
久しぶりに会った彼の様子は
疲れきっているように感じた
メニューを見ている彼に
「ご注文がお決まりになりましたら
ボタンを押してください」
そう告げると静かに席を離れた
彼は何も言わない
ただの客として彼はいた
これが本来の二人の距離
客と店員
今までがおかしかったのだ
そう何故か自分に言い聞かせていた
軽い食事を終わらすと
彼は無言で出て行ってしまった
彼を店員として見送る私に
心に寂しさを残っていたのだ
仕事が終わり着替えながら
傘を見て捨てなければと思った
もう置いている必要はない
いつものように店から出た途端に
私の足が止った
店の前に車が止まっていたから
彼が私の姿を見たのか
ゆっくり車から降りて来た
大倉「迷惑やと思うけど
話したくって....」
私は黙って彼の顔を見つめていた
なぜ、私と話したいのだろうか?
「疲れていますね」
いつもの調子で彼に言った
すると彼は安心した顔をした
大倉「ちょっとだけな...」
「そうですか....」
大倉「相変わらずやな」
彼は、笑っていた