第3章 ちょっと冷静になってみよう*
「怖いって…?」
白石を見つめると、
彼は静かに手をポケットに入れた。
涼しくも暑くもない
生ぬるい不気味な風が
足元を通って流されていった。
体に戻ってきた体温が、妙に痒くなる。
「まあ、あいつから
聞いた話だけどね。」
「? あいつって?」
「俺らのクラスメイトだよ。
っと言っても、学校には
来てないけどね。」
「えっ」
そう言った途端、
何故か声が出なくなった。
聞いてはダメ、そう本能がいっている。
少し気になりもしたが、
その場は静かに済ませることにした。
どちらもなんとも言わない。
結局、二人の会話はそれが最後となった。
「じゃ、また明日ね、愛ちゃんっ」
ニンマリと半端な笑顔で
私の頭をポンと叩く。
「はいっ、また明日。」
辺りはもう真っ暗。
白石が手を振っているのを
じっと見つめていると、その影は
すぐに電灯の光から
夜の暗闇へと溶けていった。
数分程、ぼうっと
その場に立ちすくんでいた。
…さてと、帰りますか。
やっと重い足を動かし、
我が家へと向かおうと歩いていると、
広い空き地が見えた。
あんな新築の密集地の中でも
静かな場所はまだあるものだ。
初めての場所のはずなのに
とても懐かしく思えた。
「…あれ?」
よく見ると、空き地の隅に
中ぐらいのダンボール箱が見えた。
そして、そのダンボールの前に
立っている人影が。
気になり近づいてしゃがみ込むと、
小さな猫たちがダンボールの中で
悲しそうに鳴いていた。
ミャー、 ニャー…
「可哀想…捨て猫かな…」
子猫とわかると、
ダンボールを掴んで鳴いている姿が
悲しくも惨めに見えた。