第5章 ヒルのウサギ
阿伏兎はしぶしぶ資料室を出て行き、私と游燐だけになる。
『…さてと。』
「……」
ポケットの中身をガザガザと探し、さっき拾った盗聴器を游燐の前に差し出す。
『この盗聴器、さっき倉庫で拾ったんだ』
「だから何…」
『アンタに付けられた盗聴器だと思う。…何か、思い当たる節はありますかー?』
「な…!?私に!?…知らないわよ。そんな付けられる人物なんて………………っ!」
『いるんだね』
盗聴器をグシャリと潰し、後ろへ放り投げた。
游燐はまた焦って冷や汗をかきながらスマホの時間を確認した。
23:57
「…あの人が来る!」
『…?』
「っ早く逃げなさい!」
貴女だけでも、と呟いた小さな声はひどく怯えていた。
「この依頼を受けたのが間違いだった…っ」
『依頼?』
「まさか、今回の任務で最後なんて…思ってもみなかったわ…」
『…待ってよ、依頼ってどういう事?10年前も今回もアンタがやったんじゃ…』
「……10年前は違うの。私の、父よ。父も私と同じ様に依頼を受けて殺された…」
『殺された…?』
「父も私も、同じ依頼人に任務を任されたの。依頼料は5000万円、ただし、課せられた時間までに終わらせなければ殺される……」
23:58
『その、課せられた時間ってのは?』
「………今日までよ」
『!』
「…はァ…今から逃げてあの人まで資料を届けるなんて不可能…」
深くため息をついた游燐は力なくバタンと力を抜いた。
その姿を見て、私は番傘を游燐の首から離し、腰のフォルダーに直す。
「どうせ殺されるのなら貴女に『うるさいなァ』えっ?」
『アンタだって、そのお父さんぐらいは長生きしたいでしょ』
游燐の腕を掴み、無理やり立たせると、そのまま資料室を出た。
腕は離さないままで、誰もいない廊下で走り出す。
「なにを…」
『依頼とか任務とか、ごちゃごちゃ喋る前に、アンタは私の部下ですから。勝手に辞められちゃ困るんですけど。』
「でも…っ私は貴女も春雨も裏切ったのよ?!」
『大丈夫!
だって、2000人の中から選ばれた賢い人、だもんね?』
「…! フフッ…そうね!」
23:59