第5章 ヒルのウサギ
けれど、
…ガッシャァァァアン!!!
「……っ!」
出入り口を塞ぐように、天井から降り注ぐ巨大なガラクタ。
彼女は持ち前の反射神経で華麗に避ける。
「…っ誰!?」
崩れ落ちたガラクタ。
そこから小さな笑い声。
「…誰って言ってるの!!」
『あらァ?貴女の喋り方は、そんな感じでしたっけ〜?』
「……はっ、」
ガラクタの頂上からひょいと降り立つ。
そして彼女に近づきながら問いかけた。
『…ねェ、こんな所で何してたの?
………………游燐チャン?』
腰に下げた番傘を勢いよく持ち構えると、游燐は1歩後ろへ下がった。
「…っ」
『ははっ。何で分かったのって顔だね。…いいよ、教えてあげる』
私が気づいたのは、資料室に侵入者が入った数日後のこと。
神威と''クモ男''の話をしている時だった。
『…クモ男って確か、体制を低く保ち、音も立てずに任務をこなす姿から名がついたんだよね?
私もアンタから情報をもらった後、独自でも調べたよ。
''クモ男''、その姿は誰も見た事がないらしい。
じゃあ何で…''男''って性別が判断できたの?』
それは、侵入者本人が広めた情報だったからだ。
『…人は、''〇〇男''と言われたら勝手に男だと判断してしまう。アンタはそれを逆手にとった。…まんまと騙されたよ!』
「…!」
『体制を低く保つ?
体制を低く保つなんて、長時間不可能に近い。
だから、春雨隊員の平均身長になって紛れ込んだんだ!
それなら堂々と広場を歩けるし、疑われる必要もないからね』
「っじゃぁ、音も立てずに任務をこなす姿は説明つかないじゃない!」
『…そんな事ない。資料室でのシャッター音、あれはワザとでしょ?』
「…ーっ!」
『資料室という、春雨が絶対に盗まれたくないあの場で、盗撮だよ。すっごーい騒ぎになるって予想してたんじゃないの?
どーせアンタはこの騒ぎの中で、データを盗んでトンズラ〜っていう計画だったんでしょ。
けど、実際、元老(うえ)はそれ程でもなかった。スルーとほぼ同然で事は終了。』