第5章 ヒルのウサギ
『…?阿伏兎!』
本棚の裏側にいた阿伏兎。彼も何かを調べるように分厚い本を手に持っていた。
「サクラか。珍しいねェ、サクラがココに居るなんて」
『まーね。調べたいことがあってさー!』
「…明日は雨かもな」
『失礼な!ってか、ここは宇宙なんだから関係ないわコノヤロー!』
そうだったな、と阿伏兎に頭を撫でられて渋々許した。
『あ、そうだ阿伏兎。あの本取ってよ!上から2段目の、右から3番目…それそれそれ!取って!』
阿伏兎でもギリギリ届く位の高さ。私が届くわけないでしょ!
背伸びして頑張っている阿伏兎は可愛い。もう一度言う。可愛い!!
「と、とれねェ…もう、ちょっと…っ」
『おっさん可愛すぎか。』
阿伏兎の指が本にかかった時、隣の本も一緒に落ちてきた。
そんなもん、誰が予想できる?
目的の本に目が行っていた私は気付かなかった。
「サクラ!」
『え。』
力強く腕を引っ張られ、よろけると壁に背が軽くあたり、腰に手の感触が。
その本はゴトリ、と足元ギリギリに落ちた。
「気をつけろよ」
『(こ、こここ、これが、いわゆる、壁ドンってやつですね…!!?) え、あ、うん』
目をグルグル回して力が抜ける。
大丈夫か?と心配した阿伏兎は、私の頬に触れ、顔を近づけた。
『(お、わわわ…!近っ)』
「顔が赤いな、医務室に…」
パシャ……
『「!」』
撮られた……!!
私と阿伏兎は同時にそう思った。
私はそっと阿伏兎から離れ、出入口の方を見る。だが誰もいない。ましてや扉が開く音もしなかったし…
『厳重システムな筈なのに、音もなしで侵入するなんて…』
「…あァ」
『神威の言う通りかもね』
スパイが紛れ込んでいる噂って。