第3章 吉原炎上篇
下される命が分かっているのか目を閉じた阿伏兎。
「……俺ァ加減なんてした覚えはないがね。だが、あの人材をこんな所で消すのは勿体ないと思ったのも事実だよ」
『……』
「アンタと会った時と同じ感覚だった。団長。実に面白い兄妹だよ。」
『でも嬉しいことだよね。有望な新人さんが続々と。』
神威は静かに手を振り上げる。
「あぁ…。夜兎(おれたち)の未来は明るいぜ。これからはお前達の時代だ。俺達古い夜兎は夜王とともに月に還るとするか」
ゴト…
「……ありゃ?どういう風の吹き回しだ」
神威は振り上げた手をそっと下ろし、そのまま阿伏兎に肩を貸した。
「阿伏兎、俺もお前と同じだ。さきが気になって一人殺れなかった男がいる。
真の強者とは強き肉体と強き魂を兼ね備えた者。そんな者とは程遠い、もろい肉体とくだらないしがらみにとらわれる脆弱な精神を持つ男だ。」
『…でも、その男は夜王に勝ったんだ。何度倒れても立ち上がり、圧倒的実力差をくつがえして生き残った』
私は阿伏兎の反対側の腕を肩にかける。
「…面白いだろう。やっぱり宇宙は広いね。夜兎が最強を称するのはまだまだ早かった。」
『まだまだ宇宙にはいるんだね。私達とは全然違う形の強さを持った人達が。』
「侍という、夜兎に匹敵する力を持つ修羅。
ワクワクするじゃないか。あの獲物は俺のものだよ。誰にも手出しはさせない」
『それもいいけど、吉原の変を知れば元老(うえ)は黙ってないよ。幹部の私でギリギリなんだから。あのサムライさん達もタダではすまないね』
「…俺は世渡りが苦手なんだ。阿伏兎、お前にはまだ生きていてもらわないと困る。」
「つまり、元老(うえ)を黙らせ侍共を死なせぬ手を考えろと?
オイオイ冗談よせよ。何で俺が同族でもない、こんな辺境の星の蛮族のためにそこまでしなきゃならねーんだ」
「だって阿伏兎言ってただろ」
『「宇宙の海賊王への道を切り拓いてくれるって」』
「それとこれとは別だろ!!しかもサクラ、アンタは幹部なんだからそれくらい出来るだろ!?
オイ!きいてんのか!オイ!すっとこどっこい!」
降り注ぐ太陽の熱を感じながら、私達は春雨の船に戻った。
【吉原炎上篇 END】