第3章 吉原炎上篇
血が
肉が
魂が
渇いてゆく
「いけェェェェェ!!!」
「銀さんんんんん!!!」
「夜王の鎖を…」
焼き切れェェェェェ!!!
*
太陽の下に延びる旦那。
その頭上に、私と神威が歩み寄った。
「人とは哀れなものだね。己にないもの程、欲しくなる。届かぬものに程、手をのばす」
『夜王になかったもの、それは陽でしたか。』
「旦那、あなたは太陽のせいで渇いていたんじゃない。あなたは太陽がないことに渇いていたんだ。」
『誰よりも疎み、憎みながらも、誰よりも羨み、焦がれていたんですね。
夜兎(わたしたち)が決して手に入れることの出来ない太陽に。』
「冷たい戦場ではなく、あたたかい陽の下で生きることに。
決して消えない、その目の陽に。」
『故にその陽を奪った女達を旦那のいる夜へ、この常夜の国に引きずり込んだ。』
「そしてそれでも、なお消えぬ陽を憎み、愛したんだ。」
『日輪という誰よりも強い女を、愛したんですね。』
すると、旦那から笑声が聴こえた。
「愛?一体そんな言葉、どこで覚えてきた神威、サクラ。
そんなもの、わしが持ち得ぬのは貴様らが一番よく知っているはずだ。」
戦う術しか知らない私達は、力ずくで奪うのみ。気に障るのも全て。
『…愛する方法も、憎む方法も、戦うことでしか表現できません。夜兎というのは。』
「あぁそうだ。神威、お前もいずれ知ろう。
年老い己が来た道を振り返ったとき、我らの道には何もない。
本当に欲しいものを前にしても、それを抱きしめる腕もない。」
爪をつきたてることしかできぬ。
引き寄せれば、引き寄せるほど、爪は深く食い込む。
手をのばせばのばすほど、遠く離れていく。
「お前さえもわしを嫌う。
何故、お前さえ、わしを拒む。
何故、こんなに焦がれているのに、わしは渇いてゆく。」
旦那は閉じかけた眼を薄っすらとあけると、太陽と日輪が美しく映った。
「……ひ、日輪」
私と神威は顔を見合わせ、ニッコリと微笑んだ。