第3章 吉原炎上篇
壁に寄りかかっていた神威が私を見る。
「!サクラ、危ないよ」
『旦那ァ。それは間違ってます。晴太がここまで来たのは、母親の顔が見たいなどそんな簡単な意志で来たんじゃありません』
ドンドン
『ちゃんと、心で繋がった母親に会う覚悟で来たんです』
晴太は扉に何度も何度も身体をぶつける。
「母親ならいる。ここに。オイラの母ちゃんならいる。ここに」
さっきよりも強く、涙を浮かべて扉に想いをぶつける。
「常夜の闇からオイラを地上に産み落としてくれた!!命を張ってオイラを産んでくれた!!血なんかつながってなくても関係ない!!」
オイラの母ちゃんは日輪(このひと)だァァ!!
「…諦めの悪い童だ。仕方あるまい」
『旦那、何をする気ですか。』
「黄泉で本物の親と対面するがい…!」
『!』
旦那で隠れていて気付かなかった。
目の前に木刀が飛んで来るなんて、そんなもん予知出来るわけがない。
「サクラ!」
ぐいっと右手を掴まれそのまま引っ張られると、誰かに抱きしめられた。頭に手を添えて。
『あ…』
目の前にはチャイナ服、それと見慣れた三つ編み。誰か分かった。
「…だから危ないって言ったじゃないか」
『あ、ありがと神威…』
意外だな…まさか神威が私を助けるなんて。
動揺を隠せない私を腕から離すと、神威はまた壁に寄りかかった。
晴太の頭上スレスレでその木刀が刺さり、旦那の後ろから見たことのある銀髪の男の人がいた。
…あり?この人たしか…
「オイオイ聞いてねーぜ吉原一の女がいるっていうから来てみりゃよォ。」
ビキビキ…と音を立てて開く扉。
現れたのは目に涙を溜めていた日輪。
「どうやら子持ち(コブつき)だったらしい。涙が何よりの証拠だ」
銀髪の男の人は一歩前へ出る。
「店長、新しい娘頼まァ。どぎついSMプレイに耐えられる奴をよ」