第3章 吉原炎上篇
己の身体を使い、扉に叩きつける。
『「!」』
「今度はオイラが!母ちゃんを吉原(ここ)から救い出す!!今度は!オイラが母ちゃんを護る!!」
床にまで響くほどの強さ。
「もうこんな所に絶対に置いて行ったりしない!!今度こそ一緒に吉原(ここ)から出るんだ!!母子で一緒に地上(うえ)に行くんだ!!」
たった八歳の子供が、母を思ってここまで出来るとは。地球は凄いね。
「だから…母ちゃん!ここを開けてくれ!!お願いだ!母ちゃん!!母ちゃん!!かっ…「やめとくれ!!」…かっ、母ちゃん」
「アンタの母ちゃんなんて…ここにはいない。そう言ってるだろ」
「そんな事あるまい。」
不意に後ろから聞こえる聞き慣れた声。
「そんなに会いたくば、会わせてやろう。このわしが。」
「ほっ…鳳仙!!」
「あちゃー見つかっちった」
『長居し過ぎて見つかった。どーするゥ』
「連れていくなら連れていけ。」
旦那が床に放ったのは結われた髪。
「それがお前の母親だ」
「!」
「お前の母親は日輪ではない。とうの昔に死んでこの世におらんわ。」
「……何を…言ってるんだ」
『…考えたら、吉原一の花魁が、誰にも気付かれずに子を産むなんて不可能だもんね』
旦那は私を見てニヤリと笑うと話だした。
八年前、一人の遊女が子を孕んだ。でも吉原で子を産めば、子供ごと始末される。そこで仲間の遊女達はその遊女をかくまい、密かにその子供を産んだのだ、と。
「そう。それがお前だ童」
その母親は衰弱し、晴太を産み同時に亡くなったらしい。
「どうして、どうして、こんな所に来ちまったんだィ…私達の分まで地上(うえ)で元気でいてくれりゃそれで良かったんだ」
扉の向こうから聞こえるか弱い声。
「アンタが命張って護る程のモンじゃないんだよ。私ゃ」
「お前の母親などこの世のどこにもおらんわ。わかったらその形見だけ持って消えろ。…それとも、冥土で母親に会いたいというのなら別の話だが」
ククッと喉を鳴らす旦那を目に私は旦那と晴太の間に立った。