第3章 吉原炎上篇
ドゴォォォ!!
旦那の左右の天井に2人の若者がめり込まれた。
夜王の手には扇子と三味線。それを床に放り投げた。
瓦礫が上からパラパラと降っており、血だらけになった脚が宙ぶらりんとなっているのを見て叫ぶ花魁。
「クックック…。貴様ら、わしを査定に来たのだろう。」
「!」
阿伏兎の焦りが感じられる。
旦那は目の前の台を足で軽く蹴り飛ばす。
「気づかぬとでも思っていたか。元老(うえ)の差し金だろう。今まで散々利をむさぼりながら、巨大な力を持つ吉原に恐れを抱き始めたかジジイ共」
グイッと着物から両腕をだし、夜王の肉体を露わにする。
「吉原に巣食う、この夜王が邪魔だと。ぬしらにこの夜王鳳仙を倒せると。」
メキメキと音を立て力を込める旦那。
阿伏兎は晴太を背に隠し、顔を引きつらせながら旦那に応える。
「あ…あんたの出方次第だ。あんたといえども春雨と正面から闘り合う気にはなれんだろう。よく考えて行動した方が身のためだ」
『「そいつは困るな」』
「そんなんじゃ俺のこの乾きはどうすればいい?」
『私の乾きはどこで癒えればいい?』
「女や酒じゃダメなんだよ」
『私達はそんなものいらない』
戸棚の上に腰掛ける神威と壁に寄りかかる私。
ズザザ…と、天井から落ちてきたのは旦那の隣にいた花魁。
『そんなもんじゃぁ…』
「癒えやしないんですよ」
鳳仙の旦那も、ニヤリと笑った。
ズガシャァァ!!
神威の脚と旦那の腕が両者の頬を掠める。
でも、旦那の腕は神威の後ろにいた私が払った。
ポタッ…
鳳仙の旦那の頬からは血が流れる。
「…血。修羅が血。」
もう一度、旦那の頬からは血が流れる。
『己と同様か、それ以上の剛なる者の血。』
「その血をもって初めて、」
__俺の魂は 潤う