第3章 吉原炎上篇
『旦那、気持ちはわかります。私は神威より歳上なのですから。』
「旦那、気持ちはわかりますよ。俺は旦那と同じ男ですから。」
「ほう、しばらく会わぬうちに飯以外の味も覚えたか。」
『「はい」』
ギュウゥウ…と脇をつねってきた神威!ちょーー痛えェェ!!
お返しに足の小指をつねってやった。
「酒か?女か?吉原きっての上玉を用意してやる。言え。」
じゃあ…と神威が続けた。
『「日輪と一発、ヤラせてください。」』
ピタッと旦那の扇子の音が止まる。
「手土産もこの通り、用意してあるんです。」
神威の言葉で、後ろの襖が開き、ロープでグルグル巻になった晴太を阿伏兎が連れてきた。
『きっと、喜んですっごいサービスしてくれるでしょう?』
「……」
「嫌ですか。日輪を誰かに汚されるのは」
『嫌ですか?晴太に日輪を連れ去られるのは』
『「嫌ですか、日輪と離れるのは」』
後ろにいる阿伏兎の顔が歪む。
「少し黙るがいい。サクラ、神…」
旦那の言葉を遮るようにして、神威と私はケタケタと笑う。
『年はとりたくないもんですね。』
「あの夜王鳳仙ともあろうものが…全てを力で思うがままにしてきた男が。たった一人の女すらどうにもならない。」
『女は地獄、男は天国の吉原?…違うかと。ここは旦那、貴方が貴方のためだけに作った桃源郷(てんごく)』
「…神威、サクラ、黙れと言っている。」
神威と私は立ち上がって旦那の元へ歩く。
側に座ると、神威は旦那のお猪口に酒をつぐ。
『誰にも相手にされない哀れなお爺様が、』
「カワイイ人形達を自分の元につなぎ止めておくための牢獄」
「きこえぬのか」
私は少し後ろにいる花魁から三味線を借り、昔ながらの曲を引く。
『酒に酔う男は絵にもなりますけど、』
「女に酔う男は見なれたもんじゃないですな。」
『「エロジジイ」』