第7章 ユウガタのウサギ
大雨の中を走ること数分、よく家族で行った港街で阿伏兎は私を降ろしてくれた。
阿伏兎の傘に入り、真っ暗になったあたりを見渡す。
『パパとママはっ?』
「…こっちだ。いいかサクラ、俺から離れるなよ」
『わかった!』
阿伏兎に付いて行くと、巨大な船が見えてきた。
どうやら、ここにいるみたい。
ザワザワと騒がしい船の中をこっそりと入っていく。
「……」
『なんでこんなに騒がしいの?』
「…サクラ、アンタに言わなきゃいけないことがある」
『?なぁに』
「旦那の、仕事は聞いたことあるか」
『パパの、…うん!お偉いさんでしょ?』
「ああ…だが、''裏の''取締役だ」
『"裏の"?』
気づけば誰もいなくなった廊下を阿伏兎と2人で歩いていた。
足音が響く。どこか悲しそうに。
「……旦那は、人を殺す職業だ」
『……え?』
「手段を選ばない、有名な殺し屋だ」
『ど、どういうこと…』
「珍しい夜兎。それに強い。だから春雨は旦那を欲しがった」
『春雨…』
私だって夜兎だ。パパもママも夜兎だから。
春雨だって知ってる。有名だから。でも、私たちには関係ないと思っていた。
「旦那はその誘いを断った。…春雨に逆らうと、どうなるのかも知っていた筈なのに」
『……』
「相手も夜兎、人数も圧倒的、だから呼んだんだ」
『パパと、ママは、どこ?』
「ここだ」
廊下を突き進んだ先に、大きな扉が立ちはだかる。
阿伏兎が静かに扉を開ける。
『…』
「ガキのくせに冷静だな。叫ぶやらすると思ったんだが…」
ここは、
地獄だった。
1000人ほど入れそうな大きなホールだが、横たわる人で埋め尽くされていた。
ところどころに血が流れている。
だけど、マントを着た男の人達は数え切れないほどいて、
ホールの真ん中には2人の男女。