第7章 ユウガタのウサギ
大雨の中走り出してしまった母を見届けた後、母の言う通り電気も全て消して、寝室のベッドで横になっていた。
するとまもなく、
コンコン
『?』
「誰かいるか?」
玄関から男の人の声が聞こえた。
母の言う通り、私は黙ってベッドの上で布団を被っていた。
「ちょっと邪魔するぞ」
『(!?)』
男がそう言うと、いきなり玄関の扉に向かって発砲した。
初めて聞く音に恐怖の二文字が頭に浮かび、私は本能でクローゼットの中に隠れた。
ガシャン!と扉を粉々にした男は家の中に入ってきた。
『(っ!)』
腰が抜けてクローゼットの中で縮こまる。
小さな隙間から息を潜めて覗くと、
男はリビングを見渡し、そして寝室へと入ってきた。
さっきまで私が横になっていたベッドを少し触る。
「まだ、温かい…近くにいるな」
『(!)』
鼓動が早くなって口元を手で抑える。
ベッドに寝るんじゃなかったという後悔で涙があふれてきた。
『(ママ…パパ…助けて)』
「……」
『(誰か…っ)』
そして
キィ…
「…ここにいたか」
『ひっ…!』
ゆっくりクローゼットを開けられて、私を見下ろす黒い影。
『…っ』
「…そんな顔すんじゃねェ」
『…?』
黒い影は、私と同じ目線までしゃがむと頭を撫でた。
妙に心地よかった。何故か安心した。
『…私を殺さないの…?』
「ああ。当たり前だ」
『?』
「俺はアンタを迎えに来たんだ」
『迎えに?…ならママのお友達?』
「あー…、まぁそんなもんだ」
そっか、と呟いたら、男の人は微笑んで身につけているマントで私の涙を拭き取った。
『ママは、どこにいるの?』
「…旦那と一緒にいるさ」
『パパと? なら、私もそこへ連れて行って!』
「ああ。そのつもりだ」
男の人は私を軽々しく抱き上げると、玄関へと走り出し、そのまま向かいの家の屋根へと飛び立った。
彼の身につけているマントがひらりと舞う。
相変わらずの大雨だが、彼の傘が守ってくれた。
「そういえばオメーさん名前なんて言うんだ?」
『サクラ!』
「サクラか、いい名だな。」
『アナタはなんて名前?』
「俺は、阿伏兎だ」