第7章 ユウガタのウサギ
その日は
大雨だった。
「サクラ〜雨沢山降ってるから窓閉めて〜」
『はぁい』
まだ幼い私は、精一杯背伸びをしてキィっと窓をしめた。
『雨、やまないね』
「ええ。でも、今日はパパが帰ってくるから楽しみね」
『パパ…、私の事覚えてくれてるかなぁ』
「もちろんよ。パパがサクラの事忘れるわけなんてないわ」
『ほんと?』
「ええ!だから早くパパの夕食も作っちゃいましょ?」
私の父は夜兎、家に帰ってこないことは多々あった。
大きな企業のお偉いさんだから、と。
そう、聞かされていたから。
『ママ、お偉いさんのパパは今どんなお仕事してるの?』
「……いろいろよ。サクラには難しいから大きくなったら教えるわね?」
『うん…』
細かい事は教えてくれなかった。
その時は私がまだ子どもだからと思っていた。だから深入りはしなかった。
でもその日、父がなかなか帰らないまま時間が過ぎて行き、
一本の電話がかかってきた。
受話器をとった母はサーッと顔色を変えて急いで番傘を手に取り玄関へと走り出した。
私もたどたどしく後を追って行く。
『ママ?どうしたの?』
「サクラは家で待ってなさい!!」
『え?』
「絶対に家から出ては駄目よ!誰が来ても扉を開けないで!!電気も全て消して待っていて!!できるわね!?」
『う、うん…』
こんなに焦った母は初めて見た。いつもはおしとやかで綺麗で凛としている母ではなく、その姿を見た私はYesとしか言いようがなかった。