第5章 行き違い
角都は淡々と算盤を弾いて首を振る。
「何だよ何だよ、あーあーあーあー、つっまんねえなああぁ!」
飛段が一際大きな声を出して卓の上に足を投げ出したとき、イタチはそれに混じって消されそうな声を聞き分けた。
「すいませーん」
サソリと角都も顔を上げる。
「たくよォ、無理にでもついてきゃ良かったぜ。重くなっから駄目って、だったらあのデカイの置いてけっての!」
「・・・鬼鮫の知り合いに会いに行くのに鬼鮫を置いていってどうする?たまには頭を使え。終いに腐って耳から脳ミソが出て来るぞ」
たまりかねた角都が、仕方なく突っ込みを入れる。
「どなたかいらっしゃいませんか?」
また聞こえた。イタチとサソリと角都は顔を見合わせた。
空耳ではないようだ。
しかもこの声、イタチには聞き覚えがある。
「頼もーう!」
「ブ」
サソリが小さく噴いた。
「はー、マジ詰まんねぇ。退屈で死ぬわ。マジ死ぬ」
自分のデカイ声しか耳に入らない様子の飛段は、玄関ホールから聞こえて来るふざけた訪いに気付かない。
「・・・誰か頼みごとしてるぞ。行って頼まれて来い」
角都に言われてキョトンとする。
「はあ?何だって?」
「誰か来てるっつってんだよ。行って見て来いや」
厄介払いとばかりにサソリも角都に加勢する。
飛段は、頭を掻きながら立ち上がった。
「客かよ。気付いたんならさっさと出りゃいいだろ。待たせてやんなっつうの」
こういうところ、飛段は案外気がいい。
イタチも立ち上がった。
「俺も行く」
「ほ、珍しいなぁ、イタチ。テメエが俺に絡むなんてよ」
飛段ばかりではない。他の二人も驚いた顔でイタチを見ている。
「いや・・・」
「お留守ですかー」
「お、ホントに誰か来てんな」
腹を掻いて欠伸しながら飛段が歩き出した。イタチもそれに続く。
「お頼申すー」
誰もいないと思ってか、声がどんどんふざけてきている。
「はいはぁい、頼まれましたよォ」
飛段もさして意識する事なく、ごく普通にふざけた答えを返して大きな扉の横にある小潜りに手をかけた。
声がそこから聞こえて来るからだ。
「あれ?」
飛段の答えに声が頓狂な響きを帯びた。
"あ・・・間違いない・・・"
それを聞いてイタチは目を見張った。
何故このタイミングでここに?
小潜りが開いて、牡蠣殻の姿が現れた。