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連れ立って歩くー干柿鬼鮫ー

第4章 文通


最近、深水先生にファンが出来た。
先生について矢鱈知りたがる手紙が頻繁に送り付けられて来る。
生まれから育ち、来し方、行き方、どんな教師でどんな医師なのか、今どうしているのか、この頃は何を話しているのか。
正直怖い。
何故なら、手紙の主はそれなりに立派な歳の馬鹿デカい男だからだ。
退く。
人生の半ばも過ぎて、(先生は今年で56になられる)年の離れた愛妻杏可也さんと第二の人生の楽しい計画など話し合い始めた矢先の悲劇である。
しかし人間の出来た先生は、この手紙の主の情熱を出来る限り受け止めようとなさっている。
この頃では手ずから返信をしたためるのも吝かではない様子だ。人間が出来過ぎていて杏可也さんが気の毒でならない。
もともと先生は、あまり感情を表に現される方ではない。少しでも興奮されると、自覚もないままに恐ろしく悪鬼じみたお顔になるので、幼い頃から己を鍛え、なにがあっても沈着な表情を崩さぬ術をコツコツと修養して来られた。それが過ぎて、冷たく傲慢な人物であると思われがちだ。
しかし最近ではかのファンレターに目を通し、うっすら微笑んでおられる事がある。大体が窮地に陥った教え子や患者に、ピクリとも動かぬ沈着な姿を見せてその威厳を崩さない先生が、男からの詮索の便りに微笑なさるのだ。
退く。
手紙の主、名は干柿という。因みにそこに記される宛名は、牡蠣殻とある。一応、私宛になっているという事だ。
受け取り拒否について考え始めている。
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