第27章 黄泉隠れ
「木の葉に入ったらあの鞄は取り去るんでしょうね。不意に移動する事もなくなる訳ですから」
「ああ、牡蠣殻もあんなん腰に着けてたっけな」
飛段は窓辺に肘をついて鬼鮫をチラと見上げた。
「どうすんだ?砂ァ行くのか?」
鬼鮫は人混みの先を見やって目を細めた。あそこに浮輪波平がいるのだろう。今何を思っているのか。
「・・・散開を見届けたい気もしますがね。私は行きますよ。飛段は見ていったらどうです」
「オメエも見てきゃいいだろ・・・お、面白ェ姉ちゃんが出て来たぜ?早いな。磯ってな効率的な里なんだな」
前置きなどなさそうだ。遠目に磯の民を分けて列ばせる藻裾の姿が見える。傍らに牡蠣殻と似たあの護衛が、藻裾を渋々と手伝っていた。
木の葉の人々が取り巻いて眺めるなか、早々に五代目火影と波平が現れた。
「早いですね。こんなモノなんでしょうか・・・」
ざわめきは木の葉からのみ、磯の民はシンとしている。状況もあろうが、元がこういう民なのだろう。静かだ。
火影が何か告げて手を上げる。散開を宣言したのか、ざわめきがどよめきに変わった。
「・・・宣言を火影に譲りましたか。どこまでも拘りのない・・・」
波平は幾人かの老人を従えて火影の後ろに控えていた。ここから彼の表情を具に見る事は出来ないが、心なしか緊張の色を感じる。
「アレか、磯影ってのは。若ェじゃねえか。てっきりもっとじじいかと思ってたぜ」
飛段は頬杖を止めて立ち上がった。そう言えば飛段は以前に磯と接触している。
「あなたが言っているのは先代の磯影の事じゃありませんか」
「あぁ、かもな。ありゃ息子か。よく似てるわ。あんときゃ潮ォ引かれて往生したぜ。みるみる皆消えてくからよ。怖いってか気味が悪ィってか、腹はゾワゾワするし鳥肌は立つし、妙な感じだったぜ?」
火影が波平に前を譲った。波平は二三言話すと、両の手を掌を下に、前へ伸ばした。
「・・・おいおい・・・」
飛段は口を片手で覆って窓から一歩退いた。
「どうしました?」
掌から重いものでも垂れている様なゆっくりとした動作で、波平が腕を上げて行く。
風が吹いてきた。ヒューヒューと音のする不思議にはっきりした風だ。服や髪が吸い上げられる様に吹き上げられる。胃が引っ張りあげられたような不快な感覚が襲ってきた。
「・・・これは・・」
牡蠣殻に連れられて失せた時の感覚だ。