第27章 黄泉隠れ
「アスマから聞き及んでいるだろうが、磯の民百四十二人中、五十八人二十三世帯が木の葉に残る事を希望した。他に散財する家族の元へ移る者が十八名、磯に残る者が六十七名、先行きが定まらぬまま木の葉にも磯にも残らぬ者が三名・・・」
綱手の報告を波平は窓から表を眺めながら聞いた。今日も歴代の火影像が揺るぎなく遠景に居る。
「そうですか。六十七名・・」
これが多いのか少ないのかは解らない。しかし、磯は残る。
波平は綱手に視線を移して、立ち上がった。
「五代目にはご迷惑をおかけしました。残る五十八人の事、くれぐれもよろしくお願いいたします」
深々と一礼する。綱手は手を上げてそれを止め、懸念ありげな目をした。
「残る民の心配は要らない。木の葉に受け入れた以上アタシが責任をもって引き受けるよ。しかし長老連はお前について行くと言っている。良かったのか、これで」
「いいも悪いもありますまい。民の意思に任せたのは他でもないこの私、彼らの出した答えに何を申せましょうか。ただ受諾するのみ」
厄介ではあるが予測はしていた。長老連は磯から離れられない。彼らは彼らで磯という吹けば飛ぶような小里を愛していると波平は信じている。
「どうやら私は妖しであらねばならないようだ」
フと洩らした波平の言葉を綱手は聞き咎めた。
「妖しだと?」
「ああ、奈良くんの事ですがね」
サラリと口調を変えて波平は椅子にかけ直した。
「確かに年若く経験も乏しい。だが彼はそれを補って余りある資質を持っているように見受けますね。何しろ敏いコだ。残る磯人はほんの数十人、相談役をするのにそう難儀な数ではない。任せていいでしょうかね?」
「アスマから聞いてるよ。構わない。アタシも磯人には目を配るつもりだし、アスマやカカシもサポートする。何より磯影がこうも見込んでいるんだ。間違いはないだろう」
「何だか気に入ってしまいましてね」
「これで協定が反故になった訳ではない。木の葉は磯を今後も同盟と見なす。いつでも顔を出せ」
「身に余るご厚遇忝なく思います。木の葉のような里と同盟であれば、磯は何かと心強い。有り難い事です」
「えらく殊勝じゃないか。どうした、波平」
面白そうに言う綱手に波平は口角を上げた。綱手は呆気に取られた。
「波平、お前今笑ったな?初めて見たぞ」
「五代目、私は今日を以て四代目磯影を名乗る腹積もりでおります」