第19章 降り落ちる災難
藻裾は弱っていた。
「・・・アタシって燃費の悪いアメ車なんだよね」
「アメ車?オイラにゃすげェ原始的な蒸気機関車に見えるぜ?」
「アタシがトーマスならアンタはゴートンだよ」
「いや逆だろ、うん」
「逆って何だよ?アタシがスマートだってか。知ってるよ、このトンチキ」
「・・・言いたかねえけどオメエ無駄に頭の回転速いよな」
「何だ?誉めてるつもりかよ?いいぞ、もっと誉めろ。腹はふくれねえけど気は紛れるわ」
「何言ってんだ、誰がオメエの為に太鼓持ちなんかすっかよ、うん?」
「藻裾、もう少し辛抱なさい。間もなく砂につきますから、そうしたら何かしら口に入れられますよ」
「何かしらじゃ駄目なんスよ。ぜったい肉。肉ないと死んじゃう」
「多分お肉だってありますよ、何処かには」
「何処かにあんのはわかってんですよ。確実にこの腹に入るとこに居てくんなきゃヤだっつってんです」
藻裾は腹を押さえてのたうち始めた。
「腹が減って腹が痛い!腹が自食始めた!オートファジーだ!もう死ぬ!」
「オートファジーなら自浄されらあ。良かったな。まともな胃になるぞ、うん」
「まともな胃なんか頼んで要らん!肉が消化出来ればいいんだ!うう、腹がシクシクするよう!」
「やかましいヤツだなぁ。ホント燃費悪ィんだな。ロシアのトラックだ、オメエは。ウォッカでもぶっ込んでろよ、うん」
「ウォッカ燃料にして全力でテメエをブッ潰してやる」
「へ。何が潰すだ。オメエが二日酔いで潰れてろ、うん」
「ケ。スピリタスも知らねえでウォッカを語んな、オタンコナス。スピリタスは凄えんだぞ。度数98もあって、酒の化け物の波平様や牡蠣殻さんでさえ一本で呑むの止めたんだからな」
「知らねえよ、牡蠣殻は知ってっけど波平って何だよ」
「バカヤロー!波平様も知らねえで磯を語んじゃねえぞ!」
「磯もウォッカも語ってねえよ。うるせえからホント黙れ。脳ミソをオートファジーしろ、テメエは」
「腹減った腹減った腹減った!!!!」
「おいバカッ、暴れんな・・・。あ」
藻裾が落ちた。
「・・・あれ?マジで降りたぞ、アイツ・・・」
「降りたんじゃありません!落ちたんです!追って下さい、ダラダラさん!」
杏可也が声をあげた。
「ダ、ダラダラさん?」
「早く!この高さでは幾ら藻裾でも無事じゃすみません!」
「そらそうだろうな。鉛の靴なんて履いてるしな」