第15章 牡蠣殻の飼う血
「・・・こんな話をしたいのではない」
不意に正気に戻った深水が、咳払いして話の舵を切った。それを受けた鬼鮫は眉を上げて椅子に座り直す。
「全く同感ですね」
窓表から聞き慣れた羽根音がした。
立ち上がって窓を開ける。見慣れた榛色の土鳩がいる。何度となく牡蠣殻の手紙を運んで来た鳩。
「・・・来ましたね。あなた矢張り、優秀ですよ」
深水が立ち上がった音がする。
鬼鮫は文を手に振り返った。
デイダラの部屋で、聞き違えかも知れない言葉を口にした後の、牡蠣殻の顔がよぎる。煙草が香った気がした。
「安い事はしたくありませんがね」
文を懐に入れて、鬼鮫は口角を上げた。
「交換条件にこの文は十分な代価を果たすと思いますが、どうでしょう、愛妻家の深水さん?」