第13章 干柿と牡蠣殻
他所のうちにお邪魔したとする。
気心の知れないうちは、居間か親しい相手の部屋が居場所になる。まさか好き勝手にあの部屋この部屋と顔を出す訳にはいかない。したくてもそこは我慢だ。叩き出されても困るからだ。
となると、余所者である訪問者が、他に辛うじてある程度自由に出入り出来るのは廁くらいだが、勿論そこは長居する場所ではない。訪問時のエチケットとして、事前に腹具合と話し合いを持つのは大切な事だ。
が、廁以外行き場のない事情は必ずしも吐き下しに関わったものでもない。
鬼鮫は廁の前で往生していた。
牡蠣殻が頭から突っ込むようにして個室に入ってから結構な時間が経っている。
「・・・こんなところであんまり声をかけたくはありませんがね。仮にもあなたは辛うじて女性な訳ですし。しかしいつまで籠っているつもりです。いい加減出て来なさい。あなたのせいで角都が表に行く羽目になりましたが、後で何かタカられても私は知りませんからね。サソリが来でもしたらまた殴られますよ、あなた」
「・・・く、ぐふ・・・ッ」
「吐血ですか?それとも隠れ食いですか?どっちにしろあまりよろしくないのは明白ですよ。出て来なさい」
「・・・うぎ・・・ぐ・・・ッ、うう・・」
「・・・流石の私も少し怖くなって来ましたよ。あなた、いつまで唸ってるんですか」
「・・・・・くぅ ・・う・・・ずっ・・・ぶは・・・ッ」
鬼鮫は顔を俯けてため息を吐くと、組んでいた腕をといた。
「わかりましたよ。泣いてるんですね。そんなところで一人で泣いててどうするんです。情けない。サソリが来る前に出なさい。こんなところを見たら、サソリは腹を抱えて涙を流して大笑いしますよ」
「・・・ぢぐじょう・・」
「・・・ちっちゃい声でしたけどね、ちゃんと聞こえましたよ。そんなに泣きたければ他の連中が来ないところへ案内しますから、廁なんかでいつまでも鼻を啜ってるんじゃありません。みっともない」
「干柿ざんもどっか行って下ざいよ」
「私が暁に払った大金をあなたが返してくれるのならいいですよ。あなたから目を離さない為に、私は大枚はたいて謂わば私自身を雇ったのですからね。安くはないですよ」
「頼んでもないのに、何で話をややこじぐするような真似ずるんですが・・・前々がら薄々思ってまじだが、干柿ざんも相当にバカなとごありまずよね?」