第11章 飛び出る災難
「お前は安易な結論を期待しすぎている。イタチさんから音の話を聞いた。状況は思うより深刻だ。下手を打って杏可也まで狙われては私は死んでも詫びきれない。波平様から返信もあるかどうか・・・のんびりしている場合ではない」
深水は思いの外焦っていた。
イタチは口を引き結んだ。音の話をすべきではなかったか。深水の性格を考えると冷静さを欠かれるのは厄介だった。
「波平様は適当な事はなさいません。あれでいてしっかり先を見ておられます。デグは必ず来ますよ。待ちましょう、先生」
牡蠣殻が珍しく真面目に言い募る。しかし深水は頭を振った。
「お前に一人歩きを許す波平様が何の先を見ていると言うのだ?波平様は優れた方だが、それでもお前はあの方を買いかぶっている。立場上無理もないが見誤るな」
「そうまで仰るなら是非にもお答え頂きたい。この私の先とはどういったものなのか」
牡蠣殻は、もの問う目で師を見た。
「波平様が目を瞑って下さったお陰で、少なくとも私は籠の鳥にならずにすんだ。囲い込まれたところで私の抱える問題の本質は変わりません。波平様はこの上の不自由を多少なりとも和らげる無理を通して下さったのですよ」
「その先で怪我をして一人死ぬ様にでもなったらばどうするつもりなのだ」
「誰にでも起こりうる事を身を以て享受する自由を頂いたというだけの話です」
「牡蠣殻、お前という奴は・・・」
「やれやれ。そう簡単に死んで貰っちゃ困りますよ」
腕組みして壁に寄りかかり、師弟のやり取りを聞いていた鬼鮫が割って入った。
「実際死んだ訳でもないのによくそんな熱心にたらればで言い合えますねえ。馬鹿馬鹿しい。今すべき話じゃないでしょう、それは」
「鬼鮫のいう通りだ、うん。まだ死んでねえんだからな」
深水は渋い顔をして牡蠣殻から目を反らした。それを受けて牡蠣殻が立ち上がる。
「牡蠣殻さん、何処へ?」
鬼鮫の問いに牡蠣殻はちょっと笑った。
「どうも私は話の邪魔になるようです。失礼しますよ。先生をお願いします」
「・・・そうですか。わかりました。後は頼みますよ、イタチさん、デイダラ」
鬼鮫は壁際から体を起こして二人を見、次いで深水に視線を巡らせた。
「深水さん、お忘れなく。私は欲しいものは手に入れますよ。どういう手を使っても」
「存じています、干柿さん」
深水は苦笑した。
「存じておりますとも」