第5章 花売り【ドルイアド】
浅黒い指には小さな輪が嵌っていた。
それは肌に食い込み、肉を赤く腫れさせている。
まだ異界との和平条約がなかった時代の遺物だとドルイアドにも分かった。
それは永代、契約した血脈に尽くす証だ。
肉に輪がはまり込んでいるのは、外そうと試みた結果だろう。
ドルイアドは客の顔を見た。
「切って、くれるかな?」
客の目は魔の物とは思えぬ程澱んでいる。
魔の物とは自由で欲望に忠実であるものだ。
それが縛られるのはどれだけ辛いだろうか。
しかし契約はした以上、成就されるまでは魔物は逆らえない。
何らかの方法でそれから抗えば、同族にすら受け入れてもらえない追われの身となる。